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 私が初めて隆磨さんとお会いしたのは今年の春先のことだった。青い空と渦巻く新緑の芳香に心もはずむ3月の下旬、私は突如、柚子穂に呼び出された。 『ななおちゃん、いまクマ(きち)公園にいる?』  電話にでるなり、柚子穂は私にそう問いかけた。 『うん、いるよ』  私と柚子穂は長い付き合いだ(腐れ縁ってやつ?)。柚子穂は私が毎週土曜日の朝、近所の通称「クマ吉公園」で読書していることを知っていた。  「クマ吉公園」は私と柚子穂が育った杉並の高級住宅街(柚子穂はその外れの外れに住んでいたけど)にあった小さな公園だ。  公園の端っこに巨大な茶色い熊のモニュメントがあって、私たちはその下でいつも絵本を読んでいた。  貧乏育ちだった柚子穂は、いつも私が恵んでやったハナクソ付きのお古の絵本を読んでいた。だいたい30分ぐらいそうやって絵本を読み、それから私たちはたいていお人形遊びをした(お屋敷で遊ぶときはシルバニアファミリーのセットをお風呂に持ち込んで豪快に遊んだわ)。  私の両親は共働きだったから、私のお世話は執事の龍源寺紋太郎(りゅうげんじもんたろう)の役目だった。私たちは心置きなく遊んだ後、龍源寺に連れられてまたお屋敷に戻るのが常だった。
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