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 そのようにして運命的な出会いを果たした私と隆磨さん。だけど……彼は私の手下(ちょはっかい)にして従僕(さごじょう)である柚子穂の恋人。  私はこの狂おしいまでの不条理に悶絶し、苦悩した。  でも悩んでばかりはいられない。私は意を決して龍源寺を呼んだ。 「龍源寺……あなたにお願いがあるのです」  思いつめた乙女の表情から龍源寺は私のSOSを察知してくれたようだ。そう、私たちのあいだに余計な言葉はいらない。 「……ななお様、密命でございますね」 「……そうなの」 「なんなりと。ななお様の手足(しのび)であるこの爺やにお申し付け下さい」 「かたじけない龍源寺、じつはね……」  私は隆磨さんからいただいた彼の名刺を龍源寺に手渡した。 「都内の一流商社に勤務するこのお方、如月隆磨さん。なんでもいいわ、とにかく彼に関する情報が欲しいの」 「はは! この殿方に関するありとあらゆる情報でございますね」 「そう。文字通り、あらゆる情報よ。好きなお寿司のネタ、初めて読んだ中井英夫作品、好みの女性のタイプ、お風呂に入ったときについつい口ずさんでしまう鼻歌、好きな音楽(オペラ)、それからどんな趣味(たしなみ)をお持ちなのか……。なんでもいいわ。とにかく(てんし)のすべてを知りたいの」 「御意!」
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