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 龍源寺が申すには、隆磨さんが外出するのは、いつもたいてい午後からなのだという。また帰宅するのは決まって真夜中か朝方なのだそうだ。 「もし如月様が日本フローレンス株式会社の社員だとすると、どうにも辻褄があわないのでございます。いま私の黒影(かげ)どもに如月様のオフィスの住所(ロケーション)を調べさせているのですが、調査が完了するにはもう少しお時間が必要なようです」 「ふーん、そうなの。日本フローレンス株式会社ぐらい大きな会社になると都内にいくつもオフィスがあるはずです。それに商社ですから、時差の関係で日本時間の夜遅くに先方(かいがい)と会議をすることも多いのでしょう。きっと彼は欧州あたりの貿易をとりまとめる総責任者(ハイパーリーダー)なのではないでしょうか?」 「はあ……なるほど。きっとそうなのでございましょう」  私は龍源寺に言い聞かせ、根気よく情報を探るように命じた。  一方、コロンゾンで運命の出会いを果たした私と隆磨さんはほぼ二週間に一度のペースで逢引きを続けていた(……といっても、いつもあの忌々しい柚子穂(カマキリ)が私たちのあいだに立ちふさがっていたわ)。  4月には渋谷にお買い物にいき、また別の日に3人で有楽町に映画を観に行った。  5月には日帰りの熱海観光に、それから別の週末に鎌倉にも行った。  6月にはマザー牧場と、それから平日の夜に高円寺でのお散歩会。  私は何度も隆磨さんと手をつなぐことを画策した。でもいつも柚子穂(だんごむし)のウスノロにそれを邪魔された。そのたびに私の怒りは沸点に達したわ。
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