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「隆磨くん遅いわね。道に迷っているのかしら?」
ああ、私の麗しのひと、如月隆磨。私はあのお方のことを思い出しただけで胸が苦しくなる。
彼の面影、微笑み、少しハスキーな声色、清々しい香水の香り、スラリと伸びた長い脚。ああ、彼こそは私が真に求める男、彼こそは私の傍で私を見つめることを許された世界でただひとりの男。
この切ない思いを柚子穂は蹂躙し、愚弄した。そのことを考えただけで私はもう叫びたくなる(叫ばないけど……)。
「そうね、ここらへんは少し道がいりくんでいるから」
私は柚子穂を一瞥してそう応えた。
「忙しいのに待たせちゃってごめんね、ななおちゃん」
相変わらず馴れ馴れしい女だ。私は彼女から名前を呼ばれることが昔から大嫌いだ。
「ううん、大丈夫よ。私も久しぶりに隆磨さんにお会いしたいし」
それは私の本心だ。彼に会いたい。彼の腕のなかにダイブしたい。もちろん私はまだ彼のことを諦めたわけではない。いや、むしろ私にはまだまだ無限の可能性がある。私の目の前にいるこの醜い女なんかに負けるわけがない。
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