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本棚に追加ザクロの向こう側
30歳をすぎて、勤めていた美術商を退職して、
新鋭の作家の作品を扱うショップを始めた。
「今度、古民家を使ってあなたの作品展示会をしようと思うの」
ガラス細工職人の彼にそう提案して、会場になる古民家の下見に来ていた。
童顔のせいか、実年齢の割にあどけなく見える彼は目を輝かせ、
「ここにグラスやカトラリー、向こうにはアクセサリーかな?とんぼ玉も作りますよ」とテーマパークに興奮する少年のように古民家中を歩き回る。
その姿に私も思わず頬が緩む。
「この展示のために花瓶も作りますよ」とご機嫌だ。「嬉しい?そんなにはしゃいで」と笑いながら彼に聞いた。
「そりゃ、嬉しいですよ」
「そうよね、ここがすべてあなたの作品で飾られるのだからね」
彼はうんと頷き、大広間へ入っていく。
大広間には床の間があり、そこにはザクロ柄のタペストリーが飾られていた。
古民家の、和風の雰囲気にタペストリーがやけに浮いて見えた。
彼もそれが気になったのか、床の間へ近づいていった。
「ザクロだね、と床の間へ足を踏み入れる。
「ちょっと、そんなところに入らないの!」と彼を嗜める。
「大丈夫だよ」と悪戯な笑みを浮かべタペストリーに手をかける。
「あぁ!もう勝手にさわらないの」
彼は私の言葉なんて無視だ。
彼はタペストリーの表面を撫でながら
「ねぇ、ザクロって女性の象徴なんだよね」とこちらをみた。
「えっ?」
「あ、イヤらしい意味じゃないですよ、ザクロは豊穣の意味があり、女性を表すみたいですよ」
そうなのと私は言って、やはりそこに上がるのはいけないことだから床の間から出るように彼に言う。
彼は相変わらずお構いなしで
「このタペストリーがドレスならば、この向こうにはなにがあるのかな」とタペストリーと私を交互に見た。
指でタペストリーをつまみ、もう片方の手で表面を撫でまわす。
彼の表情はとろけるほどの色気で溢れていた。
その何とも言えない潤んだ目で私を突く。
彼がタペストリーを持ち上げたり、指でつまんで扱くたびに私の身体はじんと熱くなる。
まるで体を直接、触られ弄ばれているような感覚に襲われる。
目を逸らしたい、逸さなきゃ…
そう思えば思うほど彼から目が逸らせない。
撫でられている感覚がずっと続く。
触れられているわけではないのに、その目と指使いが私を狂わせる。
「ねぇ、その向こう側を見せてよ」と彼はタペストリーをバッとめくりあげた。
「あっ…」
小さな声が漏れた。
その瞬間、スルッと床の間を抜け出してきた彼に耳元で
「あれ?感じてる?」と囁かれた。
「えっ、もう!そんなことないわよ!」と声を荒げた。
ドキドキしながら、彼から身を剥がし縁側へ出る。
陽が眩しい。
彼も縁側へやってきた。
「ごめん、ちょっとやり過ぎた?」
「もう、悪戯が過ぎるわ」
縁側にぺたんと座りこんだ。
「ごめん、ごめん。もうしない」と笑いながら私の膝へ顔を埋めた。
「ちょっと、仕事中だし…」
心臓の鼓動が早い。彼に聞こえないかとドキドキする。
彼の手が私の頬に伸びて来た。
「ねぇ、週末、百合さん家に行ってもいい?」
私は返事をしない。
「ねぇーぇ、行きたい、いいでしょ?」と微笑む。
「もう、しょうがないわね…」
「ありがとう、じゃ、もう少しこのままね」とまどろみ始める。
あぁ、まつ毛が長いな…、そっと彼の前髪に触れてみる。
なぜだろう…
週末が、楽しみになってきた。
FIN.

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