204人が本棚に入れています
本棚に追加
そう言って私は、家を出た。
時代は、明治から大正に移っていて、新しい時代だと皆、浮足立っていた。
私は中学を卒業してからは、母の看病に明け暮れていて、気がつけば18の歳になっていた。
同級生は、どんどんお嫁に行っているけれど、私にはそういう話は来ていない。
父は、母の事を公にしたくないから、私の嫁ぎ先も、公に探さないらしい。
でもそれでいいんだ。
母と二人きり、穏やかに暮らしていくのが、私の望みなのだから。
「はい、いつもの薬ね。」
「ありがとう、おじさん。」
薬屋さんの店主とは、仲が良かった。
「ところで、小花ちゃんはいくつになった。」
「18です。」
「そっか。そろそろと嫁ぎ先を決める頃合いだね。」
「はぁ。」
薬屋には、武坊という私よりも2歳年上の跡継ぎがいた。
「どうだい、ウチに来るかい?」
「えっ!?」
「冗談だよ。お前さんの父親は、貴族だからね。ウチなんざ、畏れ多くて貰えないよ。」
そうなのだ。
最初のコメントを投稿しよう!