最後の六将

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最後の六将

「人間は、生きるに値するか?   エルフは?   ドワーフは?   愚かな種族がいくら集えど、所詮は烏合の衆ではないか」   ゴボリと吐血しながら、それでも魔王は笑っている。 心底おかしそうに。 小柄な体に不釣り合いな巨大な鎧と大剣が、妖しい紫の光沢を放っている。 幼さに不釣り合いな漆黒の“魂”は、底無しの邪悪さを秘めている。 「人間だのエルフだのドワーフだの、実にくだらない。  無辜の民は生かす。悪党は殺す。それだけでいい」 グランも吐血しながら、魔王を見て不敵に笑う。 ドラゴンメイルの上に黒いマントを羽織り、聖剣・「マヤ」と魔法杖を構えている。 西大陸にある地下迷宮最奥部。 広大で荘厳だった空間には、血と瘴気が濃密に漂っている。 しかしそれ以上に、今は誇りと勇気が満ちている。 魔王とグラン達の死闘は、無限に広がる地下迷宮さえ破壊し尽くす程だった。 天井が見えない程高く太い柱が、何百本も粉砕されている。 互いに最大破壊魔法をぶつけ合い、空間をも切り裂く剣闘を繰り広げた爪痕だ。 魔王が三体に分かれ、うち二体が決戦の場を移さなければ、地下迷宮そのものが消滅していた。 「やっと、お前を殺せる。  たかが魔王のくせに、随分と手間がかかった」 不敵な笑みを浮かべたままのグラン。 「早く“その子”から、出ていきなさい。  魂になったあなたを、葬ってあげるから」 リーナは厳かに告げる。 自身も深手を負い、立っているのがやっとなのに。 彼女は、“天空の塔”を制覇した冒険者しか入手できない装備で戦っていた。 魔王討伐のため、この世界――「モンド」は、勇者のみの最精鋭のパーティを編成した。 そのパーティメンバーは六人。 「最後の六将」と呼ばれる。 最凶にして最後の敵に、モンドが送り込んだ、「最後の六将」。 魔法剣士、グラン。 ハイエルフの女王、リヴ・ブランジェット。 ドワーフの王、ダンテ。 大賢者、ホーリー。 不屈の将軍、レナト・フォール。 勇者を統べる一騎、リーナ・カリエン。 「聖女一匹すら見つけられなかった役立たずどもが、大口を叩くとは。  笑止千万」 魔王は全身から、大量に出血している。 それでも魔王は、尊大に笑う。 白く美しい肌に、血の鮮血は妙に艶めかしい。 グランとリーナの目の前には確かに、魔王がいる。 けれど、“魂だけが魔王”だ。 その魂が宿る“器”は……。 魔王の“魂”と“器”を切り分けられる唯一の存在が「聖女」だ。 「最後の六将」を始め、モンド中の民が聖女を探した。 けれど、見つけられなかった。 『小さき者が謳い、闇が落ちる。そして見つからずの聖女は姿を現す。未熟だが気高き者として』。 『両親無き若き女騎士が聖女たらん』。 『その者を目にして聖女と見分けられる目は勇者のみが持つ』。 『そして聖女は、青の右目と緑の左目を持つ』。 これらの伝説だけが、聖女を探す唯一の手掛かりだった。 だが誰も、聖女を見つけられなかった。 「その役立たずに、今から殺されるのは誰だと思う?」 「私達は、この世界最後の希望なの。  魔王一匹で崩せる程、脆くはないわ」 グランとリーナが、魔王を見据える。 魔王は、酷薄な笑みを浮かべたままだ。 決戦を前に、魔王は三体に分かれた。 通常の分身魔法は、敵の目を欺くのが目的だ。 よって一体の力は本体の一割程度でしかない。 だが魔王は、分身魔法など使っていない。 等身を、二つ作り出せるのだ。 各個体の力は、本体と等しい。 そして魔王は、勇者四人を強制的に転移させた。 今現在、モンドの三ヶ所で、最後の決戦が繰り広げられている。 一体は西大陸、地下迷宮の最奥部で。 グランとリーナが戦っている 一体は南大陸、吸血鬼の根城であるボスコ城で。 レナトとホーリーが戦っている。 一体は東大陸の南にある海底神殿で。 ダンテとリヴが戦っている。 突如、二つの大気の渦が発生した。 転移魔法の転移陣――出入口だ。 転移陣の発生は、決戦の終わりを意味する。 南大陸と海底神殿に転移した者が戻ってくるからだ。 つまり、二ヶ所での決戦は終わった。 現れるのは、決戦の勝者のみ。 転移門に、帰還者の影が映る。
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