決着の六将

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決着の六将

「ほう。塵ごときが」 魔王が、唇の端を吊り上げる。 「終わったか」 「これで、目の前の魔王に全力を注げるわ」 グランとリーナが言い終わった瞬間、ボスコ城と海底神殿の勝者が現れた。 装備は砕け、体は血だらけだった。 だが、転移門の前に立っていたのは「六将」達だった。 「何だ、まだここは魔王を屠っておらんのか」 左目が潰れてなお、鉄斧を背負って仁王立ちするダンテは、闘志を失わない。 「あくまで、彼女が本体ですもの。  戯言の似せ人形とは格が違うのでしょう」 全身血と汗でまみれながら、それでもリヴの立ち姿は美しく荘厳。 「魔王よ。静かにお逝きなさい」 聖衣は無残に破れ、魔法杖をへし折られても、ホーリーは強き静寂を失わない。 グランとリーナも深手を負っていたが、闘志は失っていない。 グランの左目すぐ横には、深い切り傷ができていた。 「ホーリー。レナトはどうした?」 レナトだけ、帰還していない。 それが何を意味するのか、グランは知っている。 それでも、グランは問う。 知っておかねばならない。 全ての現実を知り、受け止め、乗り越える強さが無くてはならない。 「彼は最期まで、戦士を貫きました。  勇者であり続けたのです」 ホーリーの返答に、「そうか」とグランは短く呟いた。 リーナが抜刀して構えたまま、しばし黙祷する。 「最後の六将」全員が、大切な人達の死を乗り越えてきた。 多大な犠牲を払いながらも、モンドは魔王との最終決戦までこぎつけた。 「お前等は、手を出すな」 グランが、リーナ以外のメンバーに告げる。 「ここにいる本体は、私とグランが倒してみせるから。  レナト、見てて!」 裂帛の気合とともに、リーナが魔王に斬りかかる。 その剣は聖剣であり、今はリーナの光魔法をまとって輝いている。 グランは最大破壊魔法・メテオを発動する。 魔王が、聖剣の光に呑まれる。 その頭上に、巨大な隕石が数十降り注いだ。 魔王は、仰向けで倒れていた。 血溜まりができている。 魔王を見下ろすグラン達五人は、誰も口を開かない。 動かない――動けない。 トドメを刺せば、全てが終わる。 それは分かっているが――。 「戦前に誓ったとおり、俺は魔王を殺す」 沈黙を破ったのは、グランだった。 「魔王の“魂”を“器”から切り放す“聖女”さえ、見つかっていれば……」 ドワーフの王・ダンテが唇を噛む。 「そのことは最早、議論し尽くした。  戦前の契り通り、魔王は殺さねばならぬ」 言葉と裏腹に、エルフの女王・リヴでさえ、内心で魔王殺しを躊躇する。 「分かっておる! 分かっておる……しかしだ!」 「男の胆力の無さは、種族の垣根を超える、か」 リヴに言われ、ダンテが黙り込む。 グランの宣言やダンテとリヴのやり取りの最中、リーナとホーリーは固まっていた。 倒れているモノの“魂”は、確かに最後の敵・魔王だ。 だが魔王の魂が宿る“器”は――十歳の少女だった。 華奢な体に不釣り合いな巨大で禍々しい紫の鎧。 身長よりも高い大剣。 無力で横たわる魔王は、まどろんでいる少女にしか見えない。 グランは抜刀し、 「俺が斬る」 宣言した。 仲間達に。 自身に。 中身が魔王とて、肉体を奪われるまでは無垢な十歳の少女だった。 そんな少女を斬り殺す真似など、勇者達にもできない。 否、勇者達だからこそ、できない。 しかし、猶予はない。 魔王の再生能力は人外だ。 「十歳の少女を殺して、世界の平和を勝ち取る、か。  ヘドが出るな、全く」 グランが吐き捨てる。 「けどな。誰かがやらねばならない。  だったら、汚れ役専門の俺がやるまでだ」 そう言ってグランは少し口角を上げ、他の四人の勇者を見渡す。 その誰もが、グランと目を合わせられない。 誰が十歳の少女を殺せるのか? いかなる理由があれ、十歳の少女を殺していい道理などあるのか? グランが逆手に握った剣を振り上げる。 「少女よ、世界のために死んでくれ」 グランは剣を振り下ろした。
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