#9 甘ったれんなよ

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「おい、テトラ!とうとう頭イッたか?壱、連れてきたぞ、帰って来たんだぞ!!」 「………。」  ジロがテトラに詰め寄り肩を揺らすが、反応が無い。  そのことにジロが気付き、怖がるように一歩後ろに引いた。そして憂炎のほうを見る。 「憂炎……お前、何かした?」 「別に何も。ただそこにいる彼が出て行ってから、テトラからその名前を聞いたことは一度もありません。ただの、一度も」  ジロが気まずそうにこちらを見る。そして、舌打ちをして、憂炎をキッと睨んだ。 「どっちにしても、テトラにはプライベートと休みが必要だ。憂炎、一回出てってくれよ。これは家族命令だかんな。」  ジロがそう言うと、憂炎はスッと目を細めて机の上のパソコンを畳み、大人しくリビングを出て行こうとした。 「憂炎!!」  突然、テトラが立ち上がって憂炎を追いかけ、振り向いたところでおもいきり憂炎を抱き寄せた。 「ダメだ、憂炎は、出て行かないで……」  その光景にジロは目を丸くして、「あー」と言いながら片手で自分の顔を押さえた。  俺はと言えば、散々蚊帳(かや)の外に置かれたせいもあり、既に気力を失っていた。  憂炎は抱きしめられたテトラの肩越しに俺を見て、笑うでもなく無表情で、「らしいですよ。」と言う。これは最後の時のように見せつけているのではなく、本当に心から、テトラがしたい行動なんだとわかる。  あまりに呆気なく、あまりに情けない最後。  失恋とか、そういうことですら無い。  ……無。無、だ。 「俺、帰るよ。」  そう言う声が震えているのがわかる。でもどうしようもない。  しかし目の前にはジロが立ちはだかる。 「壱、お前、またここ住んでくれ。鍵渡すから。」 「……は?」  ほんの少しだけ目線の低いジロが、俺を下から見上げる。 「テトラが壱の名前を呼ばないのは、やっぱり今でもそれが特別だからだ。憂炎に鞍替えしたんじゃなくて、憂炎くらいしか頼れる人がいないから甘えてるだけだ。あいつ、見張っておいてくれよ。」 「………んなこと言ったって……」 「なぁ!この家に住み込みのハウスキーパー雇うから!憂炎もテトラも追い出すなよ!母さんからの命令だからな!!」  ジロが、ソファに戻ったテトラと憂炎に怒鳴り、こちらに振り返る。 「これ」  ジロは、自分の携帯を取り出し俺に画面を向けた。 「若宮さんの連絡先。断ったら、悪いけど仲介しねぇから。」  その言葉に、まともにジロの目を見返す。 「………お前ら兄弟、思考回路どうなってんの?」 「虎と鬼なんだ、大目に見ろよ。」  ニヤリと笑ったジロに、さすがに苦笑を返した。 「……わかったよ。」 「……さんきゅ。」  ジロはそう言ってすぐに電話をかけた。 「………はい、そう、練習の前に時間欲しくて。…………はい。それで良いです。……では明日。」  かくして俺はまた、テトラの家に舞い戻ることになってしまった。
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