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第12話 遠足の班決め
秋の遠足を二十日後に控えた水曜日のロングホームルーム。二年A組では遠足の班決めやバスの座席決めが行われようとしていた。
村田先生はまず決定事項について発表した。
「服装は制服で」
「えー」
「私服でいいじゃん」
不満の声がちらほらあがる。私服希望の面々は主に女子で、その中心は鬼だった。
個人的には制服でよかったと思った。安堵したともいえる。
着ると気分が上がる服をおれは持っていなかった。おしゃれに無頓着なわけではない。人並みに興味はある。ただ、自分がどういう服装をしたいのかいまいちわからないし、どういう服が存在するのかもよくわからない。ファッション雑誌を見ても結局よくわからない。おしゃれはしたいけどわからないことだらけでファッションにうんざりすることもある。おしゃれから逃げているとも、おしゃれがおれから逃げているともいえた。
たとえば街で見かけた青年の服装に感動して、それと同じ、あるいは似たような服を探しても、おれの世界にはなぜだか売られていない。そういうことに直面するたび、おしゃれを楽しめるのは選ばれし人間だけな気がして厭世的になった。
「遠足で着られない分は休みの日に好きなだけおしゃれして発散してください」
はいっ、と先生は服装の話題を閉じた。
「私服に変更しようよ」なおも鬼は食い下がる。「みんな私服がいいって言ってんだからもう私服でいいじゃん」
先生は取り合わず話を進める。
「はあ? 無視かよ」
鬼が先生に届くか届かないかの声で言ってから舌打ちをした。
先生もたまにはがつんと言えばいいのに。あんな小娘に好き勝手言われてさ。
「それじゃあ次は」と班決めについての説明が始まった。
あちこちで、アイコンタクトが交わされる。微笑み顔、にやけ顔、涼しい顔、ドヤ顔、いろんな顔がある。
友達はいる。でもおれにはこいうとき、顔を見合わせるような相手はいない。
班決めってこういうときに顔を見合わせる相手がいないやつのための時間なんだろうな。始まる前から班決めが必要な人間と必要ない人間がはっきり分かれている。自分はどちらであるか、そのことを思い知らされる場だ。
「決まったらここに名前書くように」
先生が頭上で紙をひらひらさせる。それを合図に教室が喧騒に満ちていく。
和泉さんはどうするんだろう。見ると、おとなしい女子三人組に話しかけられていた。
「涼、うちの班入る?」
ふーちゃんの班に入れてもらおうかと考えた矢先、拓麻に誘われた。
せっかく誘ってくれたんだし、花島たちもいるその班に入れてもらうことにする。
バスの座席はなぜか花島の隣になった。
最後列の五人掛けシートは当然のように鬼たちが占拠した。その中には真中もいた。
水やり当番の日に本音を聞いてからというもの、真中だけではなく鬼の取り巻きたちを見る目も変わった。真中と同じように一緒にいたくているわけじゃない子はどれくらいいるんだろう。
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