はりぼてつれづれ1

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はりぼてつれづれ1

 所有格で語りたい幼馴染がいる。  「あーなんでモテねーんだろ」  そんなことない。  巧は可愛い。  すごく可愛い。  何度強調しても足りないくらい可愛い。いつまで見てても飽きない。たぶん一日中見てたって退屈しないだろう、表情がころころ変わって面白い。こんなに観察し甲斐のあるヤツってそうはいないんじゃないかな。  なんでモテないんだろうがこの頃口癖の幼馴染が椅子に反り返って背筋の限界に挑戦するのを、はらはらしつつ見守る。  「そんなに仰け反ったら倒れるぞ」  「大丈夫、バランス感覚だけは自信あるから」  口にはストローを咥えている。行儀が悪い。  俺たちは今高校近くのファーストフード店にいる。  期末考査に備え二人で勉強中だ。  どちらかの部屋で勉強する手もあるけど、俺はともかく巧は飽き性で、まわりに漫画やゲームが散らばってると気がそれてしまう悪癖がある。  だからこうして放課後、衝立で仕切られたファーストフード店のテーブルで向かい合い範囲をつきあわせている。  俺は一組で巧は二組。一組の方が若干先に行ってる。  高校入ってからこっち俺を避けてる巧が背に腹は代えられず泣きついてきたのはアドバイスを乞うため。  俺を避けてる理由は想像つく。  クラスが分かれて内心安堵してる事も、その理由も知ってる。  巧はゲンキンだから思ってることがすぐ顔に出る。知らぬは本人ばかりなり。  鈍感は残酷だ。恋する人間を悪意なく追い詰める。  店内はざわついている。俺たちと同じ学校帰りだろう中高生のグループがテーブルを囲んで騒いでるほかはカップルやサラリーマン、親子連れも目立つ。  俺たちと同年代のグループは金がないのか、ポテトと飲み物だけで時間を潰すつもりのようだ。  しばらく真面目に勉強していたのだが、巧は集中力散漫で、二十分も経つころにはだらけきってしなびたポテトをぱくつく始末。  ノートと教科書をテーブルに広げ、巧が大の苦手な数式の応用問題について懇切丁寧に説明していた俺は奉仕が報われず肩透かしをくう。  「真面目にやれよ。数学の赤点やだって泣きついてきたのお前だろ」  「だってさー、ずっとxとかyとか見てると頭痛くなんだもん。息抜きは必要だろ」  「俺だって暇じゃないんだけどな。ほかならぬお前の頼みだから……」  さりげなくほのめかすも巧はあっさりと受け流し、俺のノートを開いてぱらぱらめくる。  「超キレイなノート。頭いいヤツってやっぱ違うな」  「お前のノートは落書きと涎の染みだらけだな。授業中なにやってんだよ」  「人間観察と昼寝とメール」  俺のノートをほっぽりだすや度は自分のを手に取り、真ん中あたりを開いてページの端を指さす。  「どう?英語のヤマシタ。くりそつじゃね?自信作」  そこには英語教諭ヤマシタの似顔絵が、特徴をユーモラスにディフォルメされ描かれていた。生徒の間じゃ何年か前の首相になぞらえて冗談の種になるゲジ眉におもわず吹き出してしまう。肩をひくひく痙攣させ笑いを堪える俺と向き合い、巧が満足げに笑う。  「他にもあるのか?見せてみろ」  「あ、待て」  巧の手からノートを奪いページをめくる。  欄外に描かれているのは漫画のキャラクターや教師の似顔絵、おもいっきり不細工にした友達のギャグ顔で手慰みの趣味の割に出来がいい。ぱらぱら漫画まである。  棒人間が走って転びまた走り出し、転石に押し潰されぺらぺらになって風に吹き飛ばされた挙げ句川に流され、洗濯バサミに挟まれて乾かされているところまで来て、ふいに手をとめる。  「もういいだろ、返せよ。ひとのノート見んな」  「……だれこれ?」  俺の声は低くなってたかもしれない。  気恥ずかしげに急かす巧をじっと見つめ、最後のページを開く。  そこに描かれていたのは女生徒の横顔。  シャーペンを握り、なにかを書き写してる最中らしい。巧が赤面する。  俺からノートを奪い返そうと腰を浮かせ両手を激しくばたつかせるも、その行動を予め見越した上で右に左に翳して回避。  「だれ?」  「だ、だれだっていいだろ関係ないだろ!返せよノート、勉強に使うんだから!」  「いまやってんの数学だろ?言えないわけ?……下心でもあるの」  「おなじクラスの子だよ!」  「二組の?名前は?出席番号は?」  「いいだろ、ほっとけよ!」  「教えてくれなきゃ返さない」  「おなじクラスの入江、入江真紀!これでいいかよ畜生、満足したんなら返せって!」  やけっぱちの勢いで宣言するや俺の手からノートをひったくり、息を荒げて胸に抱く。
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