はりぼてつれづれ3

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はりぼてつれづれ3

 「ごめん」  「え」  異次元に飛躍していた思考が現実の地平に舞い戻る。  テーブルを挟んだ対面で、巧は何故だかしおらしい顔をし、俺が返したノートを立てて持つ。  「……その、俺もちょっと言い過ぎた。せっかく勉強教えてくれてんのに。ホントは今日用事あったんだろ、生徒会の」  「気にするなよ、巧の頼みだし」  巧のほうが大事だし。  ちなみに、生徒会の用事といっても大した事はないのだ。  学園祭の資材調達についての案件が二・三たまってただけで、副会長の俺が抜けたところで働き者の書記がしっかりフォローしてくれる。まあ少しは心が痛むから、次顔出す時は駅前のワゴン屋台で売ってるクリームタイヤキを差し入れよう。  巧と水入らずで過ごす時間とひきかると思えば安いものだ。  「次期生徒会長最有力候補じゃん、お前……つまんないことにつき合わせて悪いと思ってる」  「巧の頼みをつまんないなんて思ったこと一度もないよ」  むしろどんどん頼って欲しいのだ、俺に。俺だけに。  他のヤツらに目移りなんてしなくていい、依存するなら俺一人で間に合うよう巧がいつなにを相談してきても対処できる完璧な優等生をやってるのだから。  「ごめん、俺がつまんなくてモテないやつだから」  主旨がずれてきてる。  どうやらネガティブスイッチが入ってしまった模様。  俺と自分を比較し欝に入るのが巧の悪い癖だ。というか、そんな必要全然ないのに。巧は巧だからいいんであってもし巧が巧じゃなかったらぜんぜん惚れなかった、尽くそうなんて思わなかった。  「自信もてよ、巧。自分を卑下するな。お前はいいところたくさんある」  俺は理想の友人を演じる。だけど巧はへこんだまま、冴えない顔でうなだれている。心なしか、ストローの先も力なくしなだれている。  「いいんだよ、わかってるよ、身の程くらい。フォローいらねえし」  ひねくれた態度でそっぽを向く。  次の瞬間、驚きに目を剥く。  「巧?」  素早くテーブルに突っ伏すや教科書を広げ顔を覆う。  「隣の隣の席。わかるか。女子四人」  しきりと顎をしゃくり小声で囁く巧に促され、そちらを向く。同じ学校の女子が四人、黄色い声で騒いでいる。テーブルに教科書やノート、カラフルなペンシルケースを広げてることから、考査にそなえ勉強会を開いてるのだろうと察しがつく。  「うちの生徒だな。どうかしたのか」  教科書の端から覗く耳朶が薄赤く染まる。  「………イリエがいる」  イリエ。巧の片思いの相手。  「……どの子?」  「右端の子。黄色いヘアピンさしてる」  「下ぶくれの子か」  「下ぶくれ言うな」  巧が指示する方向を横目でうかがう。  隣の隣のテーブルを占拠した女子四人組は、勉強そっちのけでハイテンションなおしゃべりに興じている。先生の悪口、誰と誰が付き合って別れた、好きな芸能人やミュージシャンと話題は多岐に移り変わる。  イリエは右端に座っていた。黄色いヘアピンで前髪を分けて額を露出し、ポテトをつまみ相槌を打ち、屈託なく笑い転げる。いちいちリアクションが派手で快活。クラスでは中心グループに属してそうな子だ。  「………ああいうタイプが好きなんだ。知らなかった」  できるだけそっけなさを感じさせないよう、注意しつつ言う。  ついで、教科書を盾に伏せる巧を冷めた目で見る。  「なんで隠れるの?」  「………なんとなく」   「見られて困るわけでもないだろ」  「いいじゃん、ほっとけ」  耳がますます赤くなる。  女子高生四人組は俺たちの存在に気づかず騒いでいる。  学校近くの店だから、学生が屯うのも顔見知りと会うのも別に珍しくない。視界にちらついたところでせいぜい「あ、同じ制服」くらいの注意しか払わないだろう。  巧が声を上げなかったら、俺だってきっと気づかなかった。  俺は基本的に巧以外の事柄はどうでもいいのだ。  「……可愛い、巧。恥ずかしいんだ?」  自分でも声が意地悪くなるのがわかる。  巧はテーブルにべたりと突っ伏し教科書に隠れたまま、息を殺している。俺の問いかけを無視する態度が癇に障る。そんなにイリエが大事なのか、イリエの話が聞きたいのか?  どうだっていいじゃないか。  どうして俺といるのに俺を見ない?  どうして教科書で視界を閉ざす? 
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