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「おんどりゃぁ、何晒とんじゃい、我、コラァ!」
「すいません!」
今日もまた怒鳴られる日々だ。
仕事とは大変だ。別に自分がやりたくてできる事等、まず一つもねぇ。
常に怒られて、仕事を無事こなせば、それで終わりだ。
言いたいこともいっぱいある。
怒られた理由だって俺が悪いわけではない。
真実を伝えたい。
だが、仕事の世界にきれいごとはない。
「あ、おじちゃんボコボコだぁー」
「こら、止めなさい。声かけちゃダメでしょ」
子供はポロっと、正直に思った事が言えてうらやましい時がある。
だが俺たち大人の世界に入りゃ、それはご法度だ。
何より信用を失ってしまうからな。
明日も早いから、帰って気持ちでも洗い流すか。
明日にこんな気持ちは持っていけないからな。
プルプルプルプル。
あっ、電話だ……。
「すいません。ちょっと今から来てくれないっすか。
ちょっとトラブっちゃって」
はぁ、
入って間もない新人の奴からだ。
行かなきゃならない。
「すいません。先輩、ありがとうございます」
「今度は気をつけろよ」
「はい。助かりました。
ありがとうございます」
俺は腕時計を見る。
帰って晩飯はまだ作って食べれるな。
急いで帰ろう。
家に着くなり、風呂に洗濯、掃除に色々。
時計を見るなり。
あ、寝なきゃ。
こうして俺は就寝する。
プルプルプルプルプル、
「はい、」
「おい、お前今どこにいる?」
「今、家ですけど」
「さっさと支度して出てこい!
何やらかしてくれてんだ、ボケー。
お前んとこに任せてたやつだろが。
何トラブル起こしてくれてんだよ。
おかげでこっちも大迷惑だ。
早く出てこい!」
「はい。すぐ行きます」
はぁ、―――――。
上が、すごくお怒りだ。
まだ朝の4時だぞ。
朝食も食べないで、目覚ましに顔だけ洗って車で向かう。
仕事場につくと上は大激怒だった。
「お前、何してくれとんじゃい!
どう責任取るつもりや、おい」
「すいませんでした」
「すいませんで落とし前着くと思っとんのか。
おめぇ、仕事舐めんなよ」
こっぴどく叱られた。
とりあえず、俺が何とかするという事で話はついた。
聞くに、うちの部下の見落としが原因で、向こうとの損益が合わなくなってしまったらしい。
向こうはとてもかんかんとのことで。
当然、大事な取引相手だから、信用を失う事は避けたいというんで俺のところに回ってきた頼み事だったのだが。
とんだことになってしまった。
仲間内での俺の信用すら無くなり兼ねない。
どうケリをつけたものか。
とりあえず、家に帰って考えよう。
プルプルプルプルプル、
電話かよ……、
「おい、お前何してんだ?
暇ならちょっと顔出せ
大事な話があるんだ」
呼び出しだ。
やけに周りがうるさかった。
これは飲んでるな。
俺は暇じゃないし、そんなことしている余裕はない。
だが、相手は取引相手の仲良くしている好の人だ。
それに、会長もいるようで、会長にはお世話になっていた。
断れない誘いだ。
くそ、こんなことしてる場合ではないのに。
向かうしかない。
今日はできるだけ早く切りぬけて、徹夜で考えるしかないか。
俺はもうダッシュで向かう。
結局、帰れたのは深夜の3時過ぎ。
会長を送って、朝になれば事務所に向かう。
はぁ、時間が足りねぇ。
覚悟を決めて家を出た。
「てめぇ、まだできてねぇんか」
「すいません」
もうくたくただ。
最近思い返せば、頭下げてばっかだな。
プライベートも1個もねぇ。
家出て、事務所言って、怒られて、朝んなる。
んで、呼び出し食らって、また怒鳴られて。
何やってんだろう。
はぁ、俺何でこんな仕事してるんだろう。
「あ、あの、すいません。
助けてください。
あっちで怪しい商売みたいなのをしてる人達がいて」
「あぁん?」
ついて行くと、若い連中が何やらやっていた。
「あの人たちです」
「おい、こら、お前ら何しとんねん!」
「あぁ、なんだよ、おっさん?」
「俺らになんか用?」
「お前らここで何しとんねんって聞いてんねん」
「あぁ?なんだ、お前。偉そうに」
「喧嘩売ってんの?あんた」
「てかさぁー、おっさん一人で俺ら全員とやり合うつもり?
おい、お前ら、出て来いよ」
一人の掛け声で、3人しかいないと思った場所にぞろぞろと仲間が顔を出した。
そして、7人の若者が俺を囲んでいた。
若もんはほんと社会を知らない。だから青々しくて若いんだよ。
知らないから平気で自分たちが正しいと言ってくる。
人様に迷惑をかけて、苦しませやがって。
分からしてやるしかないか。
「おうおぅ。
そうかい。若いからって粋がりよって。
覚悟はできてんやろうな?」
「お、おい。
や、やべぇってお前ら、止めとけ」
一人の男が何かに気づく。
「なんや、話の分かる奴でもおるんけ」
「はぁ、?お前こんなおっさん一人に何ビビってんの?」
「アホか、お前。あれは、ごにょごにょ」
耳打ちに何かを言っている。
一同は顔色を変えた。
「ほんでなんや、やらへんのか?やらへんのやったら構わんけど、
お前ら、ここで何しとってん。しまうんか?これ」
「はい。すぐに片づけます」
「お前ら、もしまた今度ここで、」
「はい。もうしません。すいませんでした」
そう言って青年たちは血眼になって走っていった。
「あ、ありがとうございます。
最近やたら、あの連中がこの辺で詐欺みたいなことやっとって。
町内のみんなが困っとたんです。
仁さんがいてくれたからほんま助かったわ。
ありがとう。頼りにしてます」
「おう。またなんかあったら言ってくれ」
いい事をした。感謝されるってのは本当にいい気分だ。
「仁さん、仁さん。
助けてくれ。家の土地を売ってくれって、役人の人が取り立てに来とるんじゃ」
「ばあさん。
それはどんな人や?
ちょっと連れってくれ」
「こっちや」
「あんたら何しとんねん」
「は?
誰ですかあなたは?
「あなたには関係ないでしょう」
「あんたら、役人さん言うとったな?」
「それが何か」
「役人さんやったら、ここがどういう場所か、あんたらが一番ようわかっとんちゃうか?」
「何を訳の分からんことを」
「誰に許可得て、うちのシマ荒らしとんねん。
お前ら、ここがうちの組のもんやって知ってて、ばあさん脅しとんやろな?
ちょっと事務所で話そか」
「もしかして〇〇組の?
……。
失礼しました。あれ、そういえばここの住所とちゃうやん。
間違えとるわ」
「ほ、ほんまやな」
相手のもう片方が、乗ってくるように答えていた。
「ほんでお前ら、どこの住所行こうとしとんねん」
「どこにも行きません。帰ります
すいませんでした」
そう言って二人組の役人野郎は帰っていった。
「仁さんありがとう。
仁さんのおかげで、また助かったわ。
この街の人はみんなアンタに救われてるんよ。
仁さんの仕事は見てて、精神的にも大変な事ばっかりやと思うけど、
わしらはいつも仁さんに助けられて、守ってもらってる。
仁さんがおらんようになったらわしら、この街は終わりや。
だから、どこにも行かんといてや。居らんようになったらアカンで仁さん」
「ばぁさん……」
「あ、仁さんだ。仁さーん」
ガキんちょたちが群がる。
「ほんま仁さんは、この街の人気者やで」
そうか。俺はこの街の人達を守るためにヤクザになったんやった。
この人らの幸せを守れるなら。住処を守れるなら、俺がこの街を守ったるって思って。
それを、いつの間にか忘れとった。
お前らの嬉しそうな顔見取ったら、なんか疲れも吹き飛んでいく。
俺、この仕事しとってよかったわ。
どんなにしんどい事もこの街の為やと思ったら、どうでもないように思えてきた。
これからもこの街は、俺が守る!
こいつらの暮らしをいつまでも守る。
その為なら、汚れ仕事でもなんでもしたるわ。
こんな素敵な笑顔が見れるんやったらな。
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