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ベッドに寝転んだまま手だけを伸ばす。
下着のストラップを指にひっかけ、拾い上げた。やっとの思いで身体を起こし、脱ぎ捨てた順番を逆にたどって身につける。
一昨日も仕事で家に帰れていない服はヨレヨレもいいところで、なんとも哀れな感じだった。いや、服だけでなく、きっと私自身もはたから見ればこんな感じに違いない。
「明日っていうかもう今日だけど、朝イチで会議なの。だから帰るね」
さっき果てたと同時に倒れ込んだそのままの格好で、彼は白いシーツに埋もれた中から、うん、とだけ言って、軽く手をあげる。起きもせず、目も開けず。別れの挨拶をそれで済ますらしかった。
昔は家まで、その頃は過ぎてもせめて玄関までは見送ってくれた。ひと眠りして帰ればとか、あと五分だけとか、お別れのキスとか、なんだかんだ言っては離さないでいてくれた。一緒に暮らしたい、とも。少しも離れたくないから、そう言って。
まあ、朝イチで会議だろうと何だろうと、ギリギリまで一緒にいようと努力した私も少し前まではいたけれど。
いつしか別れ際のキスも、同棲も、ひいては結婚の話もうやむやになり、その果て消えてなくなった。今ではその話題の破片すら見かけない。
なんだかなぁ、とため息が出る。一人で乗るエレベーターの中で、ひとつずつ減っていく数字を目で追う。
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