39人が本棚に入れています
本棚に追加
......天使は本当にいたのだ。
ガチャリと金属がかむ音がした。
蓮人はアパートの扉の鍵がかかった事をドアノブを回し再度確認する。
だが3ヶ月前の出来事が突然フラッシュバックした蓮人は鍵の束を掴んだままその場を動く事が出来ない。
現在17時を過ぎ、日はとうに暮れている。
そう、あの時.........僕はギリギリまで迷った。
願いごとをした直後に突然現れた『天使』。おかしな態度や話し方はかなり気にはなるのだが目の前に広がる羽根の崇高な美。人間離れした彼自身に漂う摩訶不思議なオーラ。
確かに彼は本物だった。
どうやらその目の前にいる天使が僕の悩み、願望を『契約』という形で無償で解決してくれるという夢のような話だそうだ。
だがそんな美味い話はあるのだろうか。
大体何故僕の前に現れた?怪しい儀式など何もしていないのに。僕は散々疑い悩んだ。
だが結局、コレはチャンスなのだと思う事にして僕は契約を決めた。
『そんな迷った奴、初めてやわ。アホやなぁ。で、蓮人はん。オッケーでええんやな。』
蛇は契約の最終意思を確認するとケラケラ笑いながら胸元から丸めた古紙と大きな白い羽根の尾がついた重厚な万年筆を取り出した。
慣れた手つきで伸ばし蓮人の目の前に突きつけた一部朽ち果てた古紙。『契約書』と書かているその紙には内容について一切記載は無い。
『これはただの儀式ですわ。深く気にせんでええよ。』
そう言いながらも『契約書』にサインをする僕の指先を隣で食らいつく様に見守る姿。その蛇の気味の悪さを今でも鮮明に覚えている。
僕の『契約』それは......
今から会いに行く愛する人に『心苦しい【嘘】』をつき続ける事だった。
最初のコメントを投稿しよう!