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「.......『【嘘】が心苦しいんだ』とかぬかして蓮人、アイツはほんまにアホちゃうんか。」
蓮人がアパートを出た同時刻。
歩道橋の上の手摺りに一人、背中をもたれかけさせた蛇が遠い黒灰色の空を仰ぎ鼻で笑っていた。広がる雪雲、氷点下。
天使は寒さを感じる事等決して無い。
だが行き交う人々の服装に合わせ蛇は基本的にはその季節毎の服装に合わせる。ただあくまで蛇の場合は普段着がベースとなるが。
今日は最近お気に入りの白のロングコートを羽織り少しご機嫌である。
「珍しく善人に手を出して何企んでるんだ。また天使の収穫を邪魔するつもりか。」
突如、無の空間から眉をしかめたセラムが現れ嫌味を投げ捨てた。そのまま流れるように身体の向きを変えると蛇と逆方向を向いた。歩道橋の錆びた鉄の手摺りの方へと体重をかけたセラムは深い溜息を一つ、つく。
歩道橋の下は両側6車線の自動車専用道路。
ベッドライトを灯し行き交う交通の激しい流れは大量のスモッグと騒音を産む。両端の歩道を歩く人の群は商業ビルの光の森へと出入りする。
この無機質な箱庭の中でせわしなく生きる人という名の生き物。
その群れの中を狩りをする様に血に飢えた野獣の眼差しで選別するセラムの顔。
彼の美しく聖誕な容姿から漏れ出した赤黒い執念は今、若干の焦りの色を帯びていた。
「怖い顔してますなぁ。そんな顔してたら警戒されますに。取引までたどりつけまへんで。」
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