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「うるさい蛇。」
セラムは白いダウンジャケットの襟元を閉じ、への字に曲げた口元から白い息を漏らした。勿論セラムも寒さなど感じる様子は無い。ただ蛇と同じ『人』を演じているだけ。
「あはは。堪忍、堪忍。セラムはん、なかなか《真実の愛》が貯まらないからイライラしてますなぁ。」
「お前が邪魔ばかりするからだろ?」
セラムの態度は冷たい。
「誤解ですがな!!たまたま!ホラ、『今回はセラムはん全く関係無い』ですやろ?ワテは自分の仕事だけ一生懸命やってるだけですわ!!!」
正面をセラムの方へ素早くひるがえし両手を広げわざとらしく弁明をする蛇。
だがそんな蛇の姿などは歯牙にもかけずにセラムの青い瞳は歩道橋の上から終始『人』だけを見続けている。
「......セラムはん。『真実の愛』ほんまに全て集める気か。」
終始無言のままのセラムの横顔に向けて蛇は急に真顔をみせた。
「当たり前だよ。ジェイドの為だ。必ずやり遂げる。まだ地上には沢山の真実の愛の卵があるんだ。力づくでも収穫してみせる。」
「............そっか。」
微動だにしないセラムの姿。
蛇は寂しげに目蓋を閉じた。ふと吹き抜けた冷えた風が銀の髪を靡かせた。
「セラムはんは.........。」
蛇が重い口を開き何かを言いかけた。だが再び目蓋を開いた時、もうそこにはセラムの姿は無かった。
「セラムはんは......口下手やし要領悪い。ほんまはこういうの向いてないんやけどな。ホンマに蓮人も天使もアホや。【嘘】の美学をわかってへん。」
コートのポケットに両手を突っ込み蛇は白い息を吐く。
「あー。寒い寒い。今夜は雪かいなぁ。」
自分に酔いしれるその白い背中は歩道橋の上を行き交う人の群れに違和感なく溶け込んでいった。
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