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『心苦しいんだ......』
蓮人は悩み続けていた。
どうやら【嘘】は重ねると心が重くなるらしい。
蓮人は駅前のアーケード内を歩いていた。ふと右の袖を上げ腕時計を確認すると長針は12時を少し過ぎている。
待ち合わせは18時30分。まだ大丈夫だ。
確認し小さく頷くと蓮いガラスばりの小さなドアの前で蓮人は立ち止まる。
ドアにかけられた押し花がデコレーションされたオープンの札。蓮人はビルテナントの一角で営む老舗の小さな花屋の入り口の扉を開けた。
「いらっしゃいませ。」
狭い店内に溢れかえる色とりどりの花達、更に中央ディスプレイ棚が季節感を際立たせていた。
ポインセチアとミニツリーに見えるゴールドクレストの鉢植えの大陳。赤と緑。
店内装飾のリースとサンタのディスプレイ。
今夜はクリスマスイブ。
「いらっしゃいませ。今回もいつもの花束でよろしかったですか?」
蓮人の顔を見た若い女性店主はすぐさま切り花用の温度管理されたガラスルームへ足を向けた。
毎週土曜日、18時過ぎ必ず同じ花束を注文する。3ヶ月も欠かさず通っていればもう店主とも顔馴染みになる。
「......はい。カスミソウだけでお願いします。」
先程まで俯いていた蓮人の顔は覚悟を決めた晴れやかな表情に変わっていた。
......もう真実を話そう。【嘘】は終わりだ。
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