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二人の天使
暗闇に一つ等身大の鏡が立っている。
何もない空間。支柱も無い。木枠も無い。
銀色に輝く正面をこちらに向けて立っている。
「セラム。そこにいるのか?」
鏡の中から甘い樽香が漂う妖艶な男の色気を纏った声が闇に響いた。
「いるよ。ずっといる。ジェイド。」
鏡の裏側から突如金髪の美しい青年が顔を出した。金髪の柔らかな髪、青い瞳、裸の上半身の右鎖骨に刻まれた小さなハート型のアザ。
その青年はセラムと言う名を与えられた天使。
鏡の中の想い人、《ジェイド》から呼ばれた悦びでセラムは大きな翼を闇の中で一気に開いた。細く白い腕は鏡を抱きしめ、そして頬を剥き出しの鏡の縁に押しつけ甘い声で囁く。
「ジェイド。出てきて。」
セラムの細く女性的な声は闇の中で鈴の様に響いた。闇の水面は鏡面の輝く銀色の光を波打つ様に揺らめかせた。波が収まりその世界の漆黒の闇を写し出した瞬間、内側から強烈なストロボのフラッシュ。飛び散った光が闇に吸い込まれて消えてゆく。
徐々に鏡の中に黒髪の美しい青年が浮かび上がる。褐色の肌に黒い腰布。伸ばした鋼の筋肉を巻いた腕は鏡の外の世界に向けて掌を向けている。鏡の中の《ジェイド》は元はセラムと同じ天使。
だが美しい天使は【悪魔】と呼ばれる類の者にその身を変えようとしている。
「ああ。ジェイド、こんなに羽根がもう、、」
金髪の天使は黒く染まりゆくジェイドの羽根を嘆いた。三分の一程の羽根の先が黒い烏の羽色に変わっていた。蕩けるように鏡の足元へ崩れ落ち鏡の正面へと裸の上半身をもたれさせるセラム。ピッタリと下半身に吸いついた絹の腰巻きから生える白い脚は闇の床に伸びる。
「クソ、蛇め、。」
クロとの間を挟む見えない鏡の壁にシロは長い爪を立てて呻いた。
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