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「あれか…。
確かにすごいな…色気が服を着て歩いてる」
「…声をかけますか」
「…」
12月になった。
枯葉が舞う、陽の落ちた繁華街。相澤の家に向かう七瀬。
ーー今年いっぱいで、『契約』は終わり。
目標額に達したのだ。これだけあれば、十分だ。
ーー延長はしない。今日、言おう。
考え事をしていて、たくさんの人波の中、七瀬は気づかなかった。
「お嬢さん」
「…はっ?」
いきなりガツッと腕を掴まれ、反動でカラダがその男の腕の中に倒れた。
「…」
高級スーツに身を包んだ、目つきの鋭い男ーー髪も固めて、完璧な装い。本能的にゾクッとする。
「さすがに…いい女だな」
「…っ?」
腕を振り払おうとするが、キュッと背に捻り上げられ、あまりの苦痛に顔が歪んだ。
叫び声も出ない。
「…っ!」
「これで」
男が七瀬の目の前で人差し指を1本立てる。
「どう?」
男の後ろにはいかにもな男たちが10人ほど控えている。
1本ーー10万、ってことかーー
「お前を買おう」
腕の力をほんの少し緩めて、男がじっと七瀬を見つめる。
目が、違う。怖さを知らない、目。刹那に命を懸けている、目だ。
「離せ。先約がある」
冷静に告げると、ニヤリと笑う。
「却下だ」
「何…」
「1億やると言っている。
それで俺の愛人になれ」
「は?」
ーーいち、おく…?
何故か相澤の顔が浮かんだ。
七瀬は目をすがめる。
「そもそも…お前、誰だよ」
睨み上げると、男もスッと目を細めた。
『生意気な』と目が言っている。痛いほど顎を掴まれた。
「相澤和佳」
ーーは?アイザック…?
「の、異母兄、一琉だ」
後頭部と顎を大きな手で抑えられたと思ったら、覆いかぶさるように一琉の口が七瀬を塞ぎ、中を掻きまわした。
まわりの10人ほどの男達がいつの間にか囲んで壁となって、目隠しとなる。
往来の人は強面スーツ男たちに睨まれ、視線を逸らして早めに立ち去る。
「ん…っ…っ…」
手で力いっぱい押す。暴れるーーびくともしない。
長いーーカリッと舌を噛まれ、痛みでカラダが震えた。
「はっ…はぁっ…はあっ…」
七瀬の足の力は抜け、目は潤み、酸欠で苦しい。
「…昔から、弟の大事な物を取るのが大好きでね」
手の甲で唇についた口紅を拭いながら、一琉は妖艶に笑った。
「は?」
ーー私が大事なわけ…
「一葉と春樹は今頃元気かな?」
「…っ」
「お前は逃げられない。
七瀬」
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