『契約違反』

2/3

40人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「あれか…。 確かにすごいな…色気が服を着て歩いてる」 「…声をかけますか」 「…」 12月になった。 枯葉が舞う、陽の落ちた繁華街。相澤の家に向かう七瀬。 ーー今年いっぱいで、『契約』は終わり。 目標額に達したのだ。これだけあれば、十分だ。 ーー延長はしない。今日、言おう。 考え事をしていて、たくさんの人波の中、七瀬は気づかなかった。 「お嬢さん」 「…はっ?」 いきなりガツッと腕を掴まれ、反動でカラダがその男の腕の中に倒れた。 「…」 高級スーツに身を包んだ、目つきの鋭い男ーー髪も固めて、完璧な装い。本能的にゾクッとする。 「さすがに…いい女だな」 「…っ?」 腕を振り払おうとするが、キュッと背に捻り上げられ、あまりの苦痛に顔が歪んだ。 叫び声も出ない。 「…っ!」 「これで」 男が七瀬の目の前で人差し指を1本立てる。 「どう?」 男の後ろにはな男たちが10人ほど控えている。 1本ーー10万、ってことかーー 「お前を買おう」 腕の力をほんの少し緩めて、男がじっと七瀬を見つめる。 目が、違う。怖さを知らない、目。刹那に命を懸けている、目だ。 「離せ。先約がある」 冷静に告げると、ニヤリと笑う。 「却下だ」 「何…」 「1億やると言っている。 それで俺の愛人になれ」 「は?」 ーーいち、おく…? 何故か相澤の顔が浮かんだ。 七瀬は目をすがめる。 「そもそも…お前、誰だよ」 睨み上げると、男もスッと目を細めた。 『生意気な』と目が言っている。痛いほど顎を掴まれた。 「相澤和佳」 ーーは?アイザック…? 「の、異母兄、一琉(いちる)だ」 後頭部と顎を大きな手で抑えられたと思ったら、覆いかぶさるように一琉の口が七瀬を塞ぎ、中を掻きまわした。 まわりの10人ほどの男達がいつの間にか囲んで壁となって、目隠しとなる。 往来の人は強面スーツ男たちに睨まれ、視線を逸らして早めに立ち去る。 「ん…っ…っ…」 手で力いっぱい押す。暴れるーーびくともしない。 長いーーカリッと舌を噛まれ、痛みでカラダが震えた。 「はっ…はぁっ…はあっ…」 七瀬の足の力は抜け、目は潤み、酸欠で苦しい。 「…昔から、弟の大事なを取るのが大好きでね」 手の甲で唇についた口紅を拭いながら、一琉は妖艶に笑った。 「は?」 ーー私が大事なわけ… 「は今頃元気かな?」 「…っ」 「お前は逃げられない。 七瀬」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加