『契約違反』

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ーーああ、そう。 そうか。…私は… 強引に肩を抱かれながら、繁華街を歩かされる。 ーー罰が当たったのかな… 一琉の腕が七瀬の腰に巻き付く。 アイツみたいに背が高いけど…全然違うな。 ーーアイザック、…ごめん。 『契約違反』だ。 抵抗は諦めた。 七瀬を見下ろして、一琉は微笑む。 「興味ない?腰が抜けるぐらい気持ちいいセックス」 「…」 何故かアイツの悲しそうな顔がふと浮かんだ。 そんなことあるわけないのに。 ーーああ、神様。 神様なんかいないって思ってたけど… もし…もしいるならさ お願い。 万に一つも、私のことでアイツが傷つきませんようにーー それだけ…頼むよ。 繁華街の路地を曲がる。 人通りが減る。暗い道に入っていく。 その時ーー 「七瀬ええええッ!!!」 ーーえっ… 聞き覚えのある声。 でも…アイツはいつも『瀬戸』ってーー 「七瀬!!」 バッと振り返る。 ーーあ ああ。 アイツだ…アイザックだ…。夢じゃない。 「そいつを離せ、一琉!!」 「ああ。可愛い弟の和佳。 メール見たんだ? 久しぶりだね」 相澤の握りこぶしがブルブル震えている。 見たことのない顔。着崩れたスーツ。 眉間から、おでこも縦に筋立って、首も筋立っている。顔が赤黒い。 ーー怒ってる?…怒ってるんだ… 「この『商売女』がどうした」 フッと笑う一琉に、相澤が激昂する。 「バカにするな!!七瀬はっ… 七瀬は、俺の大事な女だ」 ー……え 「ふ…へえ。本気」 一琉は余裕で笑う。 「七瀬を返せ!」 何故か一琉の手がスルッと離れた。 「ハア…興が醒めた。帰る」 一琉が踵を返し、男たちがそれに続く。 「またな、和佳」 背を向けた一琉の口角は片方上がっていた。 泣いたことなんかないのに。 そのはずなのに。 頬をとめどなく熱い雫がこぼれ落ちる。 怖かったのか。今さら震える。 七瀬は相澤の胸に飛び込んだ。 2人ーー抱きしめ合う。 「あいつとキス…したんだな。契約違反」 七瀬の滲んだ口紅を手でごしごししながら、相澤が睨む。 「ごめ…ん」 「満了までに違反したらペナルティ。内容、覚えてるか」 「…知らない」 「期間が延長される」 「…わかった」 相澤がニヤリと笑った。 「わかった?従うか?」 「うん。…あと半年?」 「ふは。無期限。一生涯だ」 驚いて見上げた相澤の顔は蕩けるような笑顔でーー 「アイザック…?」 「言質はとった。 …もう、一生、離さないから…」 「…」 「愛してる…」
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