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首筋をなでる夜風は凍えるほどに冷たく、掌の中の缶コーヒーに愛おしさが増す。キイとぎこちない音を立てるブランコに揺られながら、藤沢さんは、もう一度だけ地面を強く蹴るとまた後ろに遠ざかっては私の視界に戻ってくる。
「二宮が新卒の頃からだから、ちょうど三年か。懐かしいな」
「はい」
「正直腹立ったことあったろ。厳しいこといっぱい言う先輩でごめんな」
私が首を横にふると、
「二宮は負けず嫌いだったよなあ」
藤沢さんは缶コーヒーを一口飲み、頬を膨らませて小さく笑った。
六つ離れた藤沢さんは、私が新卒の頃、教育係だった。
中堅の飲料水メーカー、同じ営業所だった。営業の「え」の字も知らなかった私を三年間、ビシバシ鍛えてくれたが、明日からはもういない。今日は藤沢さんの送別会だった。
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