嗚呼へーベー、生なる恵みを

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 わたしの願いは酷く困難が伴う。誰にも言わない。絶対に秘密である。大切な人にすら言っていない。誰にも言っていないから、時々、虚無のような感覚を覚えることがある。    朝、まだ黄身の固まっていない目玉焼きを何故かひっくり返してしまった。フライパンに黄色がとろりと広がって、すぐに固まる。わたしはため息を吐いた。今日はどうやら空っぽの日のようだ。  仕方なく食卓に潰れた目玉焼きを並べた。ダイニングに現れた主人はお皿を覗き込み、朝っぱらから元気よく笑った。  彼はわたしに、何かあったの? とは言わない。精神的に浮き沈みが激しい人だとも思っていないと、まだ付き合いたての頃に言っていた。君のような感性の豊かな人には当たり前に起こることだよ。苦しいかもしれないけれど、それは素敵なことでもあると思うんだと言った。そんな君が好きだよと言った。そんな風にわたしを見つめてくれる主人を、わたしはとても愛している。    主人が仕事へ出ると、わたしはリビングのソファに深く沈んだ。視線は下へ下へと落ちていく。これじゃあいけないと顔を上げると、まるでわたしの目は遠くを見ていた。遠く、願いが叶わない未来。  その日、家事も趣味もやってみたけれど、まるで上手くいかなかった。今日はやっぱり空っぽの日なのだろう。
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