プロローグ

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「ハッピーハロウィーン、お菓子買わなきゃイタズラするぞ!……ってなんだフジマかよ」 「そうだよ俺だよ。似合ってるね巧、宣伝文句は現世利益を鑑みて即物的だけど」 「被り物で声こもってっし顔わかんねーのに一発で俺ってあてにくるのすごいよな、超能力かよ」 「背格好だけで余裕。巧クイズなら余裕の初歩だね」 「ちょっと待て俺に黙ってクイズ作んな。てかカボチャ頭の怪人に似合うもなにもねーだろ」 「ジャックオランタンの仮装だろ?お世辞じゃなく似合うって」 「好きでやってるんじゃねーよ、ハロウィンキャンペーン中なもんで仕方なく任命されてんだよ。蒸れるわ熱いわ視界狭いわ、見た目は愉快でもけっこー難儀だぜ」 「この店コスプレ好きだよね、クリスマスもサンタやったし。どこから衣装借りてくるんだ」 「えーと……」 「口ごもるシチュなの?」 「店長の別れた奥さんが若い頃きぐるみアクターしてたとかで、置き土産のきぐるみが物置に大量に眠ってんだと。ちなみに奥さんとは15年前に遊園地のきぐるみバイトで知り合って」 「ごめん俺が悪かった」 「いらっしゃいフジマくん」 「噂をすれば店長こんにちは、お店賑わってますね」 「ハロウィンはクリスマスに次ぐ稼ぎ時だからね、カボチャのケーキやパーティー用のお菓子がよく売れるよ。新作見る?パンプキンタルト、かぼちゃを越した甘いクリームを巻いてみたんだ。こっちはモンブランの応用編で」 「こんにちはフジマくん」 「須藤さんもこんにちは。魔女の仮装かわいいね(巧の次に)」 「ありがとー、相変わらず息するようにお世辞いうよね。ちょっとスカート丈短くて恥ずかしいけど」 「超似合うって控えめに言ってサイコーだって、セクシーさとキュートさの黄金比の脚線美だ!なんなら使い魔に立候補してー位」 「巧?」 「なんかセクハラみたいになっちゃってごめんね……無理に着なくてよかったんだよホント、冗談で持ってきたようなもんだし」 「ハロウィンは稼ぎ時ですから。フツーの日と同じじゃツマンないし、少しは売り上げに貢献できるかなって思ったんです。そしたらお給料上がるかもしれないし……お客さんも喜んでくれるし、子どもたちも気軽に話しかけてくれて人気者な気分です。ホントはカボチャ頭とどっちにしようか迷ったんですけど」 「魔女で大正解」 「お前……自分で被り物選んだのか」 「消去法で外堀埋める作戦」 「俺は見たかったけど、巧のセクシー魔女コス」 「なっ!?ばっ!?」 「須藤さんも巧くんもお店思いの働き者で助かる、いいバイトに恵まれて果報者だよ僕は。そうだ、せっかくだからフジマくんも手伝っていかないかい?」 「じゃあ巧とペアのカボチャ頭で」 「こんなこともあろうかととっておきをロッカーに用意してたんだ、ちょっと待ってて」 「行っちゃった……聞こえてたよね今の」 「ばっかおま、客寄せパンダが顔隠しちゃ意味ねーじゃん。イケメンはイケメンなだけで広告塔になんだから恵まれた素材を生かす方向でいけよ」 「そうだよフジマくん、店長気合入ってるんだからがっかりさせないであげて。ハロウィンなら巧くんが仮装するからフジマくん絶対見に来るって、朝からロッカーに衣装用意してたんだよ」 「計画犯の上に確信犯だよね?」 「いいからいいから、個人経営のケーキ屋は色々しょっぺーんだって。俺からも頼む、今日だけ付き合ってやってくれ」 「店長のためにお願いフジマくん」 「しょうがないな……ふたりとも顔上げなって」 「お待たせー」 「店長それは?」 「執事服だよ」 「……斜め上の死球がきたぞ」 「やっぱ店長コスプレと仮装混同してるよね」 「いや待て狭いとはいえイートンインスペースもあるっちゃあるし、給仕を兼ねると思えばアリ寄りのアリなのか?こないだ休憩中に『ここ潰れたら執事メイド喫茶として新装開店するのどうかな、雇用は継続するよ』って嘘か冗談かわかんねー前フリしてきたけど」 「お店の経営苦しいのかな……」 「ええと……この服はどこで?きぐるみ関係ないですよねもはや完全に」 「企業秘密。さ、更衣室で着替えてきて」 「どうでもいいけどテンチョー、フジマが執事なら須藤さんはメイド服のが釣り合いとれたんじゃ」 「巧くん、僕はね、メイドさんに関してはロングスカート派なんだ。断固保守層と謗られようとかまわない、清く正しく美しい、気品あふれるヴィクトリアンメイド最推しなんだ。でもミニスカートしか手に入らなかった、おのれの信念に妥協したくないだろ」 「すげーかっこいい風にかっこわりーこと言ってるし入手の時点で手遅れでは」 「ロングスカート派……メモメモ」 「別に巧くんが着てくれてもいいんだけどね、似合いそうだし」 「は?やですよ」 「素だね。冗談だよもちろん」 「着たら写メってね」 「だから着ねーって」 「そんなにむきにならなくても」 「どっちが!?いやフツーに考えてキツいっしょ俺みてーな凡顔が女装て、どんな痛い罰ゲームだよ。だったらまだフジマのが」 「おまたせ」 「わーーーーーーやっぱ似合うねフジマくん、本物の執事みたい!」 「惚れ惚れするようなイケメンっぷりに磨きかかってるねえ……早速お客さんだ、フジマくんわかってるね~」 「いらっしゃいませお嬢様、どちらをお召し上がりになりますか?当店のケーキはどれもおいしいですよ、本日のおすすめはパティシエ自慢の秋の新作、パンプキンタルトです」 「え、何この髪の毛サラサラ睫毛ながながイケメン。働く店まちがえてない?」 「ケーキ屋さんであってるよねここ?」 「はいはいケーキ屋さんでお間違いないですよ、彼は当店の臨時バイト君でして本日は特別に執事の格好で接客を」 「店長が計画通りって邪悪な笑み浮かべてる……手伝ってこよ」 「悔しいけど似合ってんじゃん(須藤さんの次に)」 「ありがと巧。仕事終わったらパンプキンタルト買って帰って食べようか、美味しいって口コミで評判だよ」 「おー、いいね。じゃあ俺タルトに打って付けのちょいお高め紅茶バイト割で買ってくわ」 「お疲れ様ーやったね完売」 「売れに売れたなーやっぱハロウィンだから?ケースん中ごっそり持ってかれちまった」 「殆どフジマ君のおかげじゃない、すごい活躍だったもん。女の子たちにおすすめ聞かれまくって」 「執事喫茶のバイト経験あんのかよって位完璧だったな。ほんっとイヤミだわお前」 「母さんが読んでるラブコメ漫画のうけうりだよ」 「おばさん何読んでんだよ」 「巧の母さんから借りた『メリーさんが執事』ってラブコメ。オス羊のメリーが人間の女の子に恋して、彼女がメイドとして住みこむ屋敷で働くために一流の執事をめざす話。三角関係になるお嬢様がいいキャラしてるんだよね、口癖は『家畜風情が生意気』『マルガリータの丸狩りよ』」 「かあさん何読んでんだよ」 「私もそれ知ってる、面白いよね」 「は?」 「だろ?」 「友達のあいだで流行ってるんだ。屋敷の厨房で働いてる見習いコックの女の子がけねげでね、5巻の自分が育てた羊を潰してシシケパブにするシーン、感情移入しまくりボロ泣き」 「感情移入する場所そこでいいの?しねーのもサイコパスだけど」 「こうね、手首をぐるっと回してね、串に刺していくの」 「あの子かー、いいよね。俺もうん、すごい共感するよ。鈍感で時々無神経な庭師に片想いしてて……」 「庭師は前に付き合ってたひとが忘れられないんだよね。形見のきぐるみ、じゃない毛糸のマフラーを大事に持ってて」 「木陰でうたた寝してる庭師にそうっと忍び寄ってキスするシーン、他人事とは思えなかった」 「アレ嘘寝じゃない?」 「マジ寝だよ」 「そうかなーどうかなーなあんかひっかかるんだよね、キャスケット帽で顔隠れた演出。庭師も恋されてるの知ってて知らんぷりしてるんじゃないかなーって」 「ないない絶対ない、底抜けに鈍感だから絶対気付かないって」 「ひょっとしてフジマくん経験ある?」 「寝顔にキスと片想いどっち?」 「巧くんちょっと更衣室に」 「なんスか店長」 「今日がんばってくれたお礼に」 「…………は?メイド服っすか」 「ミニスカね。一応持ってくることはきてたんだ」 「さっきの熱い語りが一気に冷める……ってなんで俺に渡すんすか、人選間違ってんでしょ」 「須藤さんにあげたらセクハラになるじゃないか」 「逆に喜びますって」 「遠慮しないでもらってほしいんだ頼むよ、これを見ると別れた妻を思い出して涙腺がゆるむんだ」 「プレイか?プレイしたのか?」 「君が引き取ってくれないなら残念だけど萌えるゴミの日に捨てるしかない」 「服って燃えるゴミの日でいいんだっけ?不燃物のよーな……わーったわかりましたって引きとりゃいいんだろ、縋り付くような目で見んのやめてくださいって!」 「これで楽しんでほしい。フジマくんと」 「倒置法いらねーっすよね?」 「可能なら写メがほしい」 「不可能なんで諦めてください」 「お店閉めちゃうけど……ふたりでなに話してたの?」 「男同士のナイショの話さ。ねえ巧くん」 「もうやだこの店……潰れちまえ」 「帰る準備できた?巧」 「ワリィ、今行く」 「おっと巧くん、お土産の紙袋忘れてるよ」 「(わざとだよ……)すいません、ありがとうございます」 「やっと来た……その袋の中身なに?店長にもらったのか」 「あーーーーーーーーーーこれ?これな!そーそー今日のMVP級の働きをしたフジマにプレゼント、俺から渡してくれって頼まれたんだ」 「なんで巧から?」 「そっちのが喜ぶだろ」 「……だな。早く帰ってお茶淹れてタルト食べよ」
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