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ダイヤとハロウィン1
ハロウィンの夜は賑やかにふけていく。
駅からアパートへ続くアスファルトの道を歩いてると、吸血鬼やら狼男やらの仮装をした子供たちとすれ違うが、どの子もぶら下げたカゴにお菓子を回収してご機嫌だった。
「お菓子くれなきゃいたずらするぞーがおー」
「がおー」
兄妹だろうちびっこモンスターが仲良く駆けっこするのを見送り、俺と足並み揃えたフジマが微笑ましげに呟く。
「実に健全にハロウィンて感じ」
「近くの商店街でスタンプラリーやんの、その参加者だろ。仮装してきた子にお菓子配るんだってさ、っても一口サイズのチョコやキャンディーの詰め合わせだけど」
楽しげに騒ぐ子供たちを眺めるフジマに説明してやれば、何か勘違いした幼馴染が思わせぶりな流し目を使ってくる。
「巧も行きたい?」
「俺が?」
乾いた笑いしかでてこず脱力感と共に肩を竦める。
「じょーだん、ハロウィンは卒業したの。バイトで立ちっぱでもーくたくた、早く部屋帰って休みてえ」
「小4の時覚えてる?近所のピアノ教室のパーティーに参加した……」
「岡崎さんがやってたトコ?子供好きなおばさんでピアノ教室の生徒じゃなくても呼んでくれた」
「で、ご近所さんの俺たちも図々しく上がりこんだ」
「言い方……歓迎してくれたんだからいいじゃん」
「俺の分までカボチャのプリン欲しがったろ」
「覚えてねーよンなこと」
「食い意地張ってるってあきれたよ」
フジマがおどけて肩を竦めるが、表情がだらしなく緩んでるのを見過ごさない。コイツが思い出話をすると何を語ってものろけにしか聞こえない、と言ったらのろけになるのか。俺の都合が悪いことまで記憶力ばっちりなのはどうにかしてほしい。
「俺が覚えてるのはジョンにケルベロスのコスプレさせたこと」
ジョンはフジマんちの飼い犬。
「傑作だったよな、右と左にボール紙で作った犬の首くっつけて」
「俺と巧の合作。ジョンはすごい邪魔くさそうにしてたけど」
「ぐるぐる回りながら噛みついて」
「ケルベロスっていうかウロボロスだったな」
二人で馬鹿笑いをする。
幼稚園から大学まで腐れ縁を続けてりゃ語り尽くせぬ思い出も自然と嵩む。
俺の片手には店長自慢の秋の新作、カボチャのタルト入りの洒落た箱がぶらさがっている。
フジマの片手の袋にゃ綺麗に折り畳まれたメイド服。
「…………」
どうしたもんかなマジで。
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