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ダイヤとハロウィン3
「ぜっっっっっっってえやだ」
「そんなこと言わず」
数呼吸ためて断固拒否すれば、間髪入れず畳みかけ、うきうきとメイド服をあてがってくる。
幼馴染の馬鹿げた提案に、俺は音速で首振り腰を浮かす。
「嫌だって言ったらやだ、女装なんざごめんだ!誰がメイド服なんてこっぱずかしい衣装着れるかってのアホも休み休みぬかせ!」
「へえ、俺ならいいんだ?」
「べ、別にそーゆー意味じゃなくてだな……冷静に考えろ、俺のメイド服なんて誰得よ?カボチャ怪人ならまだイロモノ枠で笑えるけどフツーに考えて女装はキツい」
「俺得」
「きょう一日カボチャ頭の立ちんぼで恥かきまくったってのにマイルームの安息まで奪われるのか。安住の地はどこよ押し入れに引っ越しゃいいのか助けてフジえもん」
「あの仮装も悪くはないけど、巧の素顔が見れないで物足りなかった」
楽しみにして行ったのにと小声で付け加え、潤んだ目で上目遣いで罪悪感を突付いてくる。
「だめかな」
「だめに決まってんだろ」
言葉とは裏腹に声音が萎む。
フジマのヤツ、俺がおねだりにからきし弱いの知っててぐいぐい付け込みやがる。
上げて上げてまるめこむのが得意な性格をよく知ってても流れそうになるんだから、美形はごね得ねだり得を痛感。
うっかりほだされそうになって踏ん張れば、フジマがメイド服を俺の胸元に合わせ、爽やかにごり押す笑顔で追い討ちをかける。
「二人だけ。これっきり。な?」
「やだって」
「お願い聞いてくれたら食堂のハンバーグ定食おごる」
「その手はくわねーぞ」
「大学芋の小鉢も付ける」
「もう一声」
「デザートにプリン」
「~~しかたねえな」
そして俺はあっさり買収された。
認めるのは大変癪だが王子様は俺転がしの達人、駆け引きじゃ勝ち目がねえ。さらに付け加えるなら、うちの大学のハンバーグ定食はマジうまい。大学芋とプリンの追加で最強の布陣。
そもそもが既に女装より恥ずかしい事をしまくってるからして、今さらメイド服に着替えた所でダメージは浅いと開き直る。
店長からメイド服を託されたのは本来俺であるからして、ダチにお荷物押し付けてトンズラここうとした時点で、不本意の極みの女装を強いられるのは因果応報自業自得のオチ。
ああそうだとも、あの時きっぱり断らなかった俺こそがすべての元凶で諸悪の根源なのだ畜生。
「わかったよ着替えるよ、メイドさんのかっこでとことんご奉仕すりゃ気が済むんだろエロ王子」
「やったね」
フジマが計画通りという表情をする。こんのムッツリスケベめ。
ハメられたのはわかっちゃいてもどうしようもない、腐れ縁の幼馴染は俺の行動パターンなどはなからお見通しで仕掛けてきたのだ。
深呼吸で意を決し、ユニクロで買ったパーカーの裾を掴んで一気に脱ぐ。
ガキの頃から一緒に風呂に入った仲、夜はもっとすごい事だってしてる。
貧相な裸を見せるのは恥ずかしくもなんともねえ。
続いてズボンを脱ぎ、布がたっぷりしたメイド服にもたつきつつ袖を通していく。
「着方合ってる?女物なんて着たことねーからわかんねー」
「てっぺんに頭をくぐらすんだよ」
「肩幅変じゃね?」
「ちょうどいいよ。足は閉じて」
「おっと」
付きっきりで着替えを見られんのは落ち着かねえ。糊の利いた生地の角が皮膚にチクチクささくれる。
「ぷは」
頭を抜いて息吹き返し、長袖から手を突きだし、膝上スカートの裾を未練がましく引っ張る。
残るメイドさんキャップをフジマが手にとる。
「仕上げは俺が。頭出して巧」
「こうか」
「じっとして」
言われるがまま首をたれる。
「メイドさんキャップまでする必要ある?」
「ホワイトプリムっていうんだよ。かわいいだろ」
要らねえトリビアをひけらかし、やたらもったいぶって手をさしのべ、清楚で可憐なホワイトプリムを俺の頭にはめる。
「もうちょっと左のが安定するかな……」
見栄えのする位置や角度にこだわり微調整する手付きがこそばゆくて落ち着かねえ。
「完成」
満足げな独白。
「可愛いよ巧」
「笑えよ」
「可愛いって」
「いいから笑えよ、顔がニヤケてんだよ。そんなに面白いかよ俺のくそ似合わねー女装」
羞恥に顔を染めて俯き、膝が剥き出しのスカート丈を掴む。
生まれて初めて装着するフリルでひらひらのホワイトプリム、生まれて初めて着る黒基調のシックなメイド服。
ミニスカのせいで寒々しい生足をさらけだすのがいたたまれない。
なんていえば、「巧は毛が薄いから大丈夫、すべすべたまご肌だよ」とフジマがおよびじゃないフォローをかましそうで想像するだに恥ずか死ぬ。
いやそーゆー問題じゃねえし。
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