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 シャーペンの芯が削れる音の間に、何度か消しゴムをかける音も交じる。  できるだけ興味のないフリをしていたかったが、授業が半ばを超えてもメモに書き終わらないとなると流石に何を書いているのか気になってしまう。  授業終了まで残り10分というところで、八ヶ代はオレの方にメモ帳をすっと差し出す。  受け取らないわけにもいかないから、オレはそれを受け取った。というかあれだけ書いて消してを繰り返していた内容が一体なんなのか、それが気になって目を通さずにはいられなかった。 『世良翔太。未来予知、予言、アカシックレコード。これらの単語に少しでも興味があるなら放課後に話をしよう。校庭裏で』  ……書いてあったのはそれだけだった。  思わず裏を見返してしまったが、そこには何もない。  よくよく表を見ると、何度も似たような文面を書こうとして消した跡がある。この文章を書くのに相当苦戦したらしい。  なるほど、コイツ……コミュニケーション下手くそなタイプだな? とオレは1人納得する。あのホームルーム中のぶっきらぼうな態度は素でああなんだろう。興味をそそる対象(おれ)にはかろうじて意思を伝えることはできても、それがスムーズにできるわけではないようだ。  ……教師からは腫れ物扱い。偏った興味のせいで周りに馴染もうともできない。知れば知るほど、なんとなく哀れみが出てくるのがわかる。  だからオレは、メモ紙に『いいよ』と一言だけ書いて紙を返した。八ヶ代は紙を受け取ると、早々に懐にしまい込む。  そしてこちらを見た。『来なかったら殺すぞ』と言わんばかりの鋭い眼光に、オレは一瞬の哀れみだけで軽薄な返事をしたことを後悔する。  でも答えてしまったのだからもう仕方ない。オレも八ヶ代のことが気になり始めているところがあるから、行くしかないだろう。  谷上がまたこちらを見ている。目線は八ヶ代ではなく、オレ。どうやら言いたいことあるようだ。 「世良。ちゃんと教科書を見せてやるんだぞ」  咳払いと共に言われた言葉。教科書……? と言われてふと気づく。  そうだ、八ヶ代のやつメモを書くのに熱中していたし、オレもその動向を追うのに必死で教科書を見せるフリだけでもするのを忘れていた。 「……すみません」  とりあえず素直に謝っておく。まさか二人して授業を全く聞いていなかったと言うわけにもいかない。八ヶ代はともかくオレは普通に大目玉モノだ。  授業終わりの鐘が鳴った。あと5時限分、放課後のことを考えながら過ごすことになるだろう……。  ため息が出そうになるが、抑える。ただでさえない幸せに逃げられると困るからだ。
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