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そうやって会話していると、廊下の先の方で遼子を呼ぶ声が聞こえた。「今行く!」と返事したリョウは、オレに向き直ると、
「あんまり無理しちゃだめだよ」
とそれだけ言って、呼ばれた声のほうへ向かっていった。
(無理、……無理ねえ)
未来視のことを、リョウに話したことはない。リョウと出会った頃には、それはあまり人に話してはいけないものだと学習していたから。
……それを言わないことがアイツの言う「無理」に当たるのなら、オレはかなり無理をしているのかもしれない。
けれど、こんな馬鹿げた話、多分リョウにすらもわかってもらえない。だから誰にも言わないし、言いたくない。でも言えないと、どんどんモヤのような何かが溜まっていく。
なんとも面倒な話だと、自分でも思う。
適当な空き教室に入って、適当に机と椅子を借りる。
この学校、昔こそかなりのマンモス校だったらしいけど今となっては最盛期の半分ぐらいしか生徒がいないらしく、こうやって空いた教室があるのが当たり前だ。オレは助かっているからいいけど、学校側はこういうところを有効活用しようとは思わないのだろうか。
まあそんなことはどうでもいい。とにかく今は、静かに飯が食いたい。
シュル、と弁当を包んでいた布を外す。
と同時に、頭に走る明滅。歪んで眩む視界。
いつものだ、と思うより先に、映像が頭に流れこむ。
オレが、誰かと喋っている。よく目を凝らすと、相手は八ヶ代だ。
視界の歪みと耳鳴りが酷いせいで、何を喋っているかまではわからない。
こんなに視界が悪いのは初めてだ。
不快な感覚と共に、未来視は駆け抜けて消えた。
……気がつくと、オレは床に座り込んでいた。無理もない、あんな酷い未来視は初めてだったから。
幸い、弁当は無事のようだ。包んでいた布は床に落ちてしまったけど、これくらい気にはならない。弁当が落ちなくてよかった。
椅子に座り直して、弁当の蓋を開ける。いつもどおり質素だけど、食欲をそそる見た目の中身がそこにあった。
唐揚げを口に運びながら、ふと思う。
さっきの未来視は本当に一瞬だった。見せられた意味もわからないぐらいに。
ただただ不快な感覚が跡を引いていて、肝心の内容そのものがはっきりしない。
できれば二度とあんな感覚は味わいたくないけど、また来る日があるのだろうか……そう思うと、この未来視というやつが余計に嫌いになりそうだった。
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