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(フツーというのは、なんて幸せな言葉なんだろう)
相沢――オレの前の席にいる男子が、担任の片桐に叱られている。だけどその場面は、まるで何かレンズでも通しているかのようにわずかな曇りがあって、”ああこれは”、とオレはすぐに勘付いた。
目を閉じる。開ける。開けた先では、ホームルーム中だというのに思いっきり机に突伏して寝ている相沢の姿。
(……何も知らないということは、なんて幸せなことなんだろう)
”今から叱られるということも知らず”、樫沢は眠ったままだ。……教壇に立っていた片桐が大きなため息をついて、そして相沢の席まで近寄る。
怒鳴る片桐。飛び起きる相沢。この場面は、さっき見た。
――――未来視ができるなんて、馬鹿げた話を誰が信じるだろうか。
誰も信じない。当然だ。
けれどオレ、世良 翔太(せら しょうた)は、どういうわけかさっきのような未来視ができてしまう体質なのだ。
物心ついたときにはもうそれが当たり前だった。けれど”それ”はオレの思ったように見えたり操作したりできる代物ではなく、本当に神様の気まぐれで見せつけられているようなもの。オレにはどうしようもない代物だ。
けれどこれは捨てられるものでもなければ、消せるものでもない。完全に消し去る術があるとしたら自殺することぐらいだろうか。生憎、オレはまだ死にたくない意思のほうが強いからそうすることはしばらくないだろうけど。
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