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「まったく……」
一通り相沢を叱り終えた片桐が、再び教壇に戻る。その途中でちらりとドアの方に目をやると、片桐は「おお」と声を上げる。見ればドアの外には人影があった。
「来てくれたみたいだな。みんな、この前言った通りだが……今日は転校生が来ている」
オレは耳を疑った。転校生? そんな話してたっけ? 記憶を引っくり返して探してようやっと「確かにそんな話あったかも……?」と心当たりは出てきた。
けど、今は6月。こんな時期に、しかも高2で転校なんて……訳ありの臭いがプンプンしている。
「入っていいぞ」
片桐が言うと、ドアは無遠慮に音を立てて開かれる。
態度の悪さより何より目を奪われたのは、その異常な見た目だ。白と黒の斑模様な髪に、思いっきり着崩した制服。教室中がざわめくが、片桐が「はいはい!」と手を叩いてその場を鎮める。
チョークが削れる音。黒板には「八ヶ代 理(やがしろ まこと)」という名前が大きく書かれていた。その名前の持ち主であろう男子は、片桐に言われる前に教壇前まで歩いてくる。
「八ヶ代 理くんだ。家の都合でこの高校に通うことになったそうだ」
片桐が「なにか挨拶は?」と促すと、血の気の薄い唇が「よろしくお願いします」と一言だけ発する。
(……家の事情ねえ。確実に違うだろ)
この格好が許されているのは”お家柄”のおかげかもしれないが、これは明らかに本人に問題のあるタイプだ。極力関わり合いにならないよう立ち回ろう――――。
そう思った時、視界が大きく歪む。
ああ、これはまた”アレ”かと思って目を閉じる。そして開ける。
その先の景色では、オレの隣に八ヶ代が座っていて、そしてオレは彼に教科書を見せていた。
未来視で出てきた事象をひっくり返せたことは、オレにはない。つまり――少なくとも八ヶ代はオレの隣の席になって、そしてオレは彼に教科書を見せてやらなければならない、ということだ。
(マジかよ……最悪)
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