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目を閉じる。開く。数秒も経っていないのか。
まだ関原は八ヶ代に掴みかかっていない。けれど怒りはかなりあるようで、今にも掴みかかりそうだった。
――――あの未来視の通りなら、このままだと関原が返り討ちに合う。しかもあの映像の八ヶ代は、手加減などしていなかった。
未来視で起きたことは変わらない。そんなことも頭からすっぽ抜けたオレは、思わず席を立つ。
「待ってくれ! 確かに八ヶ代の態度は最悪だよ、けど殴ってどうなる?」
「世良……コイツの肩を持つのか?」
鬱陶しそうに、関原がオレを見る。馬鹿、お前は勝つつもりなんだろうけどこのままだとひどい目に遭うのはお前なんだよ――とは言えない。上手い言葉を考えなければ。
「肩持つとかそういう話じゃねえよ! 殴って解決する問題じゃねえだろ、ってこと。てか、コイツが殴ったぐらいで話聞くようになるタイプに見えるか?」
オレは関原の方に近づき、耳打ちする。
「……担任の片桐がコイツの態度や服装に何も言わないんだぞ。”明らかに訳あり転入生”を殴ったりなんかしたら、お前の内申やら部活やらに響くんじゃないか」
内申、部活という言葉が出た途端関原はハッとした。別にコイツの進路やらなんやらを知っているわけではないが、野球部なのは知っている。野球部はそこそこいい成績を上げているし、そこら辺を気にしているんじゃないか? という賭けだった。
関原は舌打ちすると、席に戻っていく。周りのざわめきは大きくなるが、八ヶ代の周りには大きく空間ができていた。
「世良、関原の肩持たずに転入生のほう庇うのかよ……」
「ちょっと意外。そういうキャラだったっけ?」
ヒソヒソと話す声の一部が、オレの耳に少しだけ届く。けれどそれより、オレは妙な達成感に襲われていた。
――もしかして、未来視の通りにならずに済んだ?
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