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――それはまるで、子供が気に入ったおもちゃでも見つけた時のような瞳の輝き。
俺は何も答えなかった。ただそっと目を逸らした。
けれど八ヶ代は気分を害した様子もなく、ちら、と辺りを見回す。周囲の視線が自分たちに注がれているのを確認したのだろう。
八ヶ代はそれ以上何も言わなかったが、これでこの話が終わりになることはない――そう直感が告げている。未来視ではなく普通に。
何故なら、八ヶ代はノートと一緒にメモ帳のような髪を出しているからだ。……この紙を使ってやりとりしようというのだろう。多分、空気が読める人間なら誰でもわかる。
一時限目の担当の教師が入ってくる。国語担当の谷上だ。
起立、礼、着席。そして始まる授業。
授業中、なんとか平静を装っていたつもりだったが、オレは内心気が気でなかった。
谷上はこちらを(というより八ヶ代を)チラチラと見ているというのに、八ヶ代はそれに構うことなくメモ帳に一心不乱に文字を書き続けているからだ。
さっきまでの死んだような目つきは何処へやら、今は鬼気迫る勢いで字を綴っている。
シャーペンの芯が削れていく音が、やけに耳についた。
谷上はそんな八ヶ代に注意もせず、何回かチラッとこちらを見ては黒板に向き直ったり、話を続けたりする。
明らかに授業に関係ないことをしているであろう八ヶ代に注意を一切しない。やっぱりコイツが"訳あり"なのは大方間違いないだろう。
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