第三話…―マッチ売りの少女―

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第三話…―マッチ売りの少女―

仕事に遅れてノアは怒られた。ノアもあの少年と同じように顔にあざをつけて帰ってきた。 だけどノアはそのことよりも少年を置き去りにしたことを気にしていた。 (彼はあれからどうなったかな・・・けがの具合はどうだろう) 今日はポレンタが一枚買えた。いつもの路地にまわる。ところどころ路上暮らしの少年が仕事終わりに休んでいるが、彼の姿はない。 肌寒い風がノアのからだを冷やす。もうすぐ寒い寒い冬がやってくる。 (なんだ、仲間ができたと思って少し心強かったのに) ノアが立ち尽くしていると背後から少女が話しかけた。 「ねえ、あんた、マッチいらない?あったかくなるわよ」 振り向くと自分も寒そうな裸足の女の子が大きな箱を抱えていた。 「わるいけど僕、お金がないんだ」 ノアがばちが悪そうに言うと少女はくびをかしげた。 「硬貨はあるでしょ?」 「ない。ごめん」 少女はノアを上から下までよく見ると、靴も履いてなければぼろきれを身にまとっていて荷物はずたぶくろだけだった。 「ごめんなさい、声かける相手を間違えたわね」 少女はそのまま立ち去ろうとした。 「あ、待って!」 「その、男の子を知らないかい?」 「あんた何言ってるの?男の子なんてごまんといるわよ」 「そうじゃなくて、口は悪いけど・・・ともかく、女の子みたいなやつだよ」 「あら、そんな面白い子がいるなら会ってみたいわ。あたしより綺麗なのかしら。でも知らないの、ごめんなさい」 少女はそう言うと隣の横丁に歩いていった。 (まだ彼の名前も聞いていないのに・・・) 彼のしたことは悪いことだけど、もとの気持ちは僕を助けようとしてやったことなんだ。ちゃんと話せば盗みもやめるかもしれない。きっといいやつなんだ。ノアはそう言い聞かせてポレンタをかじりながら辺りを探した。 すると遠くで叫び声がした。 「キャー!泥棒よ!売り上げを盗られたわ!」 先ほどのマッチ売りの女の子の声だった。泥棒・・・?まさか! ノアは急いで声のする方にかけていった。 そこにいたのはノアの探していた少年ではなく、街のゴロツキだった。 こいつらは夜になると弱いものをカモにして現れる。ゴロツキは3階の窓から余裕な顔つきで小銭の入った袋をぶらぶらさせていた。 ノアはあの少年ではなくてガッカリしたが、ホッともした。 「なんであんなところに?」 「ずっと後をつけられてたんだわ!お願い、取り戻して!マッチひとつあげるから!」 少女はこのまま帰ったらどんな目に合うか、と独り言を言いながらわんわん泣いている。 「別にマッチはいらないけど、僕もあいつらが好きじゃないからな」 そういうとノアは外階段を一目散に駆け上がっていった。思った以上の速さでゴロツキは焦ってさらに上へと上った。 だがゴロツキの仲間はほかに二人ほどいた。 「へへへ、これでとうぶんは飯に困らないぜ」 ノアが近づくと隣の建物へいる仲間に小銭袋をパスした。 「おまえら」 ノアはとりあえず目の前のやつに殴りにかかった。 「う、いてえ、なんだこいつ、ガリガリのくせに、見かけよりできるぞ」 「今は手加減してる方さ、さっさと返さないとおまえたちみんな同じ目に合わせてやるぞ」 「ちょっと、そいつを叩きのめしても仕方ないでしょ!お金はあっちにいっちゃったのよ!」 ノアは少しあっけにとられた顔をした。 「そうだけど、三人もいるから結局一人ずつやっつけないと、いつまでも回されるよ。そんなに言うなら君も一人倒してくれよ。ほら、あいつなら弱そうだし」 ノアが指さした方には背が低く性格の悪そうなゴロツキが壁の陰にコッソリ隠れていた。 「わ、わかったわよ!私も命がかかっているからね!」 少女はがむしゃらに背の低いゴロツキに体当たりした。ゴロツキはびっくりして避けきれなくかなり遠くまですっ飛んだ。 「なんだ、やればできるじゃないか」 ノアはその間に目の前にいたゴロツキに膝をつかせていた。 「くっ」 「さあ、あとはおまえだけだぞ」 最後の一人になったゴロツキは額に汗を流して、スキを見て逃げようとした。 「待て!」 ノアが叫ぶと同時に、最後のゴロツキから「ぎゃあ!」と唸り声が聞こえ、倒れたかと思うとそこに人影が現れた。 「やあ、このくたびれた袋がお目当てのやつかな」 シャリンシャリンと小銭の音を鳴らしながら歩いてきたのはノアが探していた少年だった。 「君・・・」
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