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第二話…―泥棒の少年―
朝、まだ街の人々は起きていない。ノアの熱はかなり引いていた。昨日看病してくれたあの少年はいなくなっている。
「そういえば彼は、昼間何をしているんだろう?お礼を言いたいのに」
仕事までまだ時間がある。ノアは少年を探しに出かけた。
この広い大都市、あてもなく夜明けのメイン通りを歩く。もう少し経つと人通りが多くなる。その前に探さないと見つけれないだろう。
そのときだった。
「この野郎!」
がたいの良さそうな男の怒鳴り声が静かな街に鳴り響いた。目をむけるとあの少年がむなぐらを掴まれて苦しそうにしていた。
「何をしてるんだ!やめて、やめてください!」
ノアが少年をかばうとおおがらな男は地面に唾を吐いた。
「なんだ、おまえも仲間か?」
「え?」
「こいつは盗みを働いたんだ」
「そんな・・・」
ノアはショックを受けた。
「最近ここいらで子供のスリが多いと噂になっていたんだが、おまえだったんだな?」
少年に一発目のこぶしがとんできた。
「別に構わないだろ?あんたたちもそれ以上豚みたいになったら困るだろうしさ」
少年は澄ました目をして鼻で笑ってみせた。また大きな手がとんできた。
「うっ」
視界がぐらつく。
「おい!やめろ!」
ノアは必死に止めた。
「今度大人をこけにしてみろ。こんなものじゃすまねえぞ小僧」
男は少年を外壁に投げ飛ばすと霧だつ街の中へ消えていった。
少年は横たわって動かない。
「おいっ、大丈夫か!」
ノアは駆け寄ると少年を腕に抱えた。
「なんで盗みなんかしたんだ!」
「なんで?もちろんお腹が減ってたからさ」
「僕にくれた食べ物も盗んだ物だったのか?」
弱り切っていた少年が目を見開いてノアを見つめた。
「だったらなんだ?おまえは死にかけてた!」
「死んだ方がマシさ!人の物を盗んで・・・君もこんな目に合って」
「死んだ方がマシだと、本気で思ってるのか?善や悪だなんてくそくらえだ」
「それでも僕は盗んだりなんかしない。神様ががっかりする」
「なら同罪として罪を償え。さあ、今ここで死ぬんだ。ついでに僕も殺したらどうだ。神様は僕たちへ罰を願っているだろう」
「そんなこと・・・」
ノアはあざだらけの少年を見ていると、だんだん怒りが悲しみに変わってきたのだった。
「いいんだ、僕が悪かった。君の横で熱なんか出したりするから。無理をさせて悪かったよ」
「すまないが、おまえがいなくてもこれが僕の日常なんだ」
少年は痛みに耐えながらも微笑する。
ノアは複雑な感情だった。お礼が言いたくて探しにきたのに、彼は泥棒だったし、ひどい仕打ちを受けて、自分もその犠牲で回復したのだ。
「なら君は本物の悪者かもしれない。君とは絶交だ」
ノアは立ち上がって背を向けた。
「いつ友達になったんだろう」
「さあ、知らない。僕は君が同じ路上で寝ていた時からそう思っていたけど」
ノアはそう言うと振り向かずに立ち去っていった。
少年は「ハハハ」と笑いながらノアの背中を見ていた。
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