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「あ、俺も書いとく!」
勢いよく後ろを振り向いたのは、真司君の前の席だったマッツンだ。
「真司君、これまでサンキュー!別班になっても元気でな」
机に置かれていたノートをもぎ取り、パラパラと新しいページを開いて、その台詞のままを真司君の机の上で書き込んでいく。
一応、真司君の始めた寄せ書きだから、真司君に宛てたものが多いのが特徴だった。
マッツンが書いている間に、次は私の前の席のケイちゃんが「私も!」と、
マッツンからノートを受け取った。
『いつもありがとう。真司君のお家に、一度くらい遊びに行ってみたかった』
彼女も台詞をそのまま書いている。
「え?来る?明日は朝から撮り溜めしてあるドラマ観まくってるけど?」
明日は祝日。
「友達呼んでドラマ見続けるだけってどうなのよ?何の会?私はパス」
あっさりと巻き込まれたくない私は蹴る。
「ん、微妙」
ケイちゃんも社交辞令だったに過ぎなかったのか、私が行かないなら行く勇気がないのか、すぐさま私に同意して苦笑い。
「何だよ、勝手に来たがったのはそっちだろう。来るならくればいいし、来ないなら来なくていいよ。俺はドラマが観たい」
「ん、死ぬほど一人で観てなよ」
言葉にしたジョークに、いつかの彼が書いていた一文を思い起こして私は固まった。
(しまった、不味ったか……)
『死にたい――』
先ほど、確かに視えたその文字が気に掛かる。
彼は文武両道を地で行く人で、友人関係も良好。
寄せ書きなんてものをするくらいだ。
人望に自信がなければそもそも始められないことに思う。
私の知る限り、家庭は裕福、家族間でのトラブルも無さそうなご両親で、小学生の弟を持つ彼は良いお兄ちゃんだ。
いったい何の不満が?
「はい、次、タニアキだよ」
ケイちゃんからバトンのようにノートを受け取る。
いつも適当に書いていたけれど、急に真剣になってしまう。
真剣に書こうとすれば、字が汚いことが気に障った。
書いては消し、書き始めては消すの繰り返し。
丁寧に書こうとするほど、まるで夢の中であるかのように書けないのだ。
そうこうしている内に、真司君に向けた『はなむけ』になる言葉が何かあった筈なのに、急に書けなくなってしまった。
頭の中で文字が散乱し、一つに繋がらない。
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