寄せ書き

3/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 参考までに、これまで書かれた内容をパラパラとめくって、読んでみる。 『今年で卒業と思うと、カウントダウンの毎日。寂しいけれど、皆元気で』 『嗚呼、愉しかった。皆、高校に行っても頑張ろう!』 『真司君、寄せ書き始めてくれてありがとう。嬉しかった』 『俺の青春!!!真っ只中』 『ありがとう。今はそれしか何も言えねぇ!』 大抵は感謝のそれで、皆の言葉は優しく降り注がれている。 『死にたい――』あのページの辺りまで来ようとするところで、真司君がこちらを見ていることに気づいて、手を止めた。 「か、書くよ。でも、書きたいことが言葉に纏まらないの」 だって、これまで散々書いてきた。 私の言葉も皆と大抵は一緒。 けれど、徐々に一言日記のようになっていた。 寄せ書きというより、毎日先生に提出する連絡帳のようなもの。 『今日の小テス記録更新決定。まるで???真司君、たまには頭脳を交換してよ』 『理科の先生何とかならない?真司君が先生だったらまだ聞ける』 『昨日借りた本の図書カードに発見!真司君も過去に読んでた』 『マラソン勝負、ハンデは2分ね。ふふっ、なら勝つのは私だ!』 ありふれた、何てことのない日常の羅列。 ああ、何だ。 そういうことか。 彼に捧げる一文が決まった。 『好きだ!卒業しても、(皆)きっと元気でね!!!』 カッコの文字は後から付け足した。 しかも付け足したと、よく見れば分かるだろうという暗号を含ませている。 きっとまだ本物ではない蕾のような淡い感情だったから、皆に向けた想いにカムフラージュして、私は満足する。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!