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「い、いいって」
「いーえ、駄目です。ほらこんな腕が細いのですよ?……って」
副会長は俺の腕を掴む。そしてそのまま黙るからどうしたのかと思い、視線の先をたどってみると、やべっ
「……これは何ですか」
「……」
「?どうした……これは」
みられた
「どうしたの?うあ、これって」
「えー?……え?」
「っあ……」
みんなにみられた、かくしてたのに
「椿…もしかして夏の間も長袖なのってこれがあるからですか」
「……」
「……いえ、今の私が踏み込めるものではないですね。すみませんでした。」
みんなの視線の先には手首にできている傷跡があった。普段は長袖のシャツに大きめのカーディガンを着て隠していた。だけど副会長が腕の細さを見るためにまくったのが問題だった。
部屋の中を流れる沈黙。俺はみんなの顔を見れなくて俯いていた。
みられたなんてさいあく
どうすればいいかわからない。いつもはどう、うごいてたっけ
俺はわからなくて泣きそうになった。自分でもわかるほど情緒が不安定だ。ふと誰かの気配が動いたのが分かった。それでも動けないで固まっていると
「……だいじょう、ぶ」
「……!?」
あったかい、俺はわんこにぎゅうと体を包まれた。クーラーと混乱で冷えていた体が温まっていくのが分かった。
俺は触れられるのがどうしても駄目なのにどうしてだろうか、ワンコの暖かさは受け入れられた。一瞬過去のことがフラッシュバックして暴れそうになったが、大丈夫だった。
身体の冷えには気づいていたが、どうやら過呼吸を起こしかけていたらしい。それに気づいて、まじかと思い、そんなことを考える余裕が戻って来たのに気づく。
俺は抱きしめてくれていたワンコの腕を優しくたたいて、離れる。
「ありがとうな」
「んーん、お互い様。」
「そっか」
二人でにっこりと笑い合う。今はその気遣いが一番ありがたい。俺は心の奥に残ったしこりに気づかないふりをして袖を戻す。
「みんなもごめんな?」
「い、いえ!こちらの方こそすみませんでした。」
「まあ、見られちゃったもんはしょうがないな。なかったことにはできないし、な」
俺はいつも出している笑顔を寸分違わないように作り出す。
だけど、その表情を見たみんなはどこか言葉を失った様だった。なんでだろう
「だけど、このことは誰にも話すなよ?」
「え、ええ」
「…わ、かった」
「…ああ」
「「わかった」」
おかしいな、どこかぎこちない。いつもと同じように笑って話しているはずなのに。声のトーンがおかしいのだろうか、それとも表情が違ったりするのか?
……まあ、いっか
そのまま話は有耶無耶になり、解散した。
あ、合宿については後々に伝えられるらしい。楽しみ、なのだろうか。今の俺ではよく、わからない。
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