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暖かいご飯、美味しいジュース、お洒落な服、豪華な家具、広い部屋、ふわふわなベッド
どれも今まで見たことがないくらいすごかった。それでも僕の心は埋まらない。
変な人に連れ去られてきてもう一か月。あの夕焼けの日は未だに頭の中に強く残っていた。
「父さん……母さん……グスッ」
ぽろぽろと手の上に落ちる涙。僕は部屋に閉じこもり、泣いていた。
周りを見渡すと白、白、白。そんな異様な光景があった。自分の身体を見下ろしてみても服は真っ白だった。見える色は白ばかり、自分の身体や食べ物、飲み物ぐらいしか色がない。部屋には扉しかなく、窓はあったが、白しか見えずちがうものを見ることが出来なかった。
コンコン
「――、貴方には今日からやることがあります。出てきなさい」
「……やだっ!」
無理だった。どんなに抵抗しても子供の力では勝てずに部屋の外に引きずり出された。
連れて行かれた先には僕と同じ服を着た子供がたくさんいた。目や髪の色が違う子もいるので日本人だけじゃなくて外国人もいるのだろう。
僕が来た後も何人か子供がやってきて全体で五十人ぐらいになったと思う。
「本日から貴方達には試練を果たしてもらいます。」
試練ってなんだろう。そんな風に不安に思っていると隣から腕をちょんちょんってつつかれた。
「ねーねー、試練ってなにすんの」
「え、あ、わからない」
「そっか」
なんだったんだろう、その言葉を最後に隣の子は前を向いた。
「この試練はとても過酷なものとなるでしょう。ですが、それでも立ち向かいなさい。それが貴方達の全てです。」
変な人が変な話を終えて、どこかに行った後、僕らは部屋に残ったままだった。
「へんなのー、ねえ!」
「なに」
「キミの名前はなーに?」
「人の名前を聞く前に自分から名乗るもんなんだよ」
「あははー、てきびしーね。俺は三十四番、よろしくな!」
「変な名前だね、僕は○○。」
「そうなんだ、俺は外に出たことがないからわからないんだ。」
「え?そうなの?」
「うん」
「そっかー」
「なあ、じこしょーかいもしたし、友達になろー!」
「友達……うん!」
「えへへ、初めての友達だ」
「そうなの?僕友達一号!」
嬉しかった。一人連れてこられて、寂しかったけどこの時だけはそれを忘れられた。友達なんて外には沢山いたけど、この変なところでは知っている人は一人もいなくて、笑ってられるこの時が大切に感じられた。
まだ、不安に感じることはあるけど、友達と一緒なら大丈夫かな。
どんなに美味しいご飯があっても、豪華な服があっても、柔らかい布団があっても心は寂しかった。けど僕が必要だったのは、気の休まる友達だったのかな。
これからどんなことがあるのかも知らずに僕たちは笑い合っていた。
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