のぞく、のぞく。

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 ***  俺の名前は野上義隆(のがみよしたか)。五十三歳、ここでアパートの管理人をやっている。この管理人室で泊まり込みの仕事だが、はっきり言ってたまに入るクレームや来客の対応以外には殆どやることがない。大家に定期的に“報告書”と“データ”を送ればいいだけの簡単な仕事だ。こうして管理人室の奥のモニタールームで好きなときに寝て食ってテレビ見てと自由にしていていいのだから実に気楽なものである。  だが、俺がこの仕事を始めた最大の理由は、この仕事が俺のように頭の悪いオヤジでもできる簡単なものだから、というものではない。いや、それも動機としてなくはないが、最大のところはそれではないのだ。  このアパートは、共有部分以外にもところせましとカメラが仕掛けられているのである。そう、アパートの個室の中――リビングダイニングはもちろん、風呂やトイレに至ることろまでそれはもうびっちりと。壁に、天井に、見えないようにくまなくカメラが埋め込まれて常にモニターされているのだった。このアパートは最初から、盗撮を目的として建築されているのである。全て、大家の変態的な趣味ゆえに。  他人の生活や秘密を除き見ることに、酷く快感を覚えて興奮する質。大家の男と俺はまさに趣味が共通していた。盗撮趣味の者が集まる裏サイトで知り合った俺に彼が声をかけた来たのが、今から丁度半年ほど前のことである。  盗撮専用のアパートの管理人を俺に任せたい、と彼は言った。そしてそのモニターで録画された映像を毎週まとめて自分のパソコンに転送して欲しいと。それさえやってくれるなら望むだけの給料を出すし、管理人室でネットしていてもテレビを見ていても何していても自由だなんて言われたら――そりゃあもう、引き受けない理由がないのである。  特に、アパートには若い女も生活している。先程まで俺が観察していた女は、バリバリのキャリアウーマンである村井梨絵(むらいりえ)、二十八歳だ。俺のお気に入りの標的である。俺のように太った豚のような男は一番嫌いな質なのだろう、管理人室の前を通っても目も合わせないような失礼な女だ。しかし、抜群のプロポーションを持つ美人であるのは言うまでもなく、女に冷たく無視されるたびに俺は思っているのである。お前の恥ずかしい姿を、俺は全部知っているし記録してやってるんだぞ、と。 ――こんな美味しい仕事はねぇよなあ。
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