のぞく、のぞく。

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 ***  駅から近く、しかも格安ということもあり、このアパートに暮らす住民には若い人間ばかりだった。俺としてはできれば美女ばかり入れて欲しいところではあるが、現在アパートに暮らしている人間は二十代の男二人に女一人だけである。男の赤裸々な場面など見てもおれはちっとも興奮しないが(大家の男は両刀使いらしく、男の裸を見るのも楽しいとか言っていたけれど)、若い男たちはどちらとモテるのか時折女を連れ込んで盛り上がってくれるのが有り難かった。嫉妬しないわけではないが、それでもリアルタイムのベッドシーンを大写しで見られるのは楽しいものだからである。  唯一住んでいる女は自分のお気に入りである村井梨絵一人だけであったのが、このたび一倉満理砂が増えることになったというわけだ。彼女が荷ほどきをしているところから、俺は興奮が収まらなくなっていた。梨絵とは違い、どこか清純そうで幼さの残る美少女。彼女とはまた違う味わいがあることだろう。早く風呂にでも入ってくれないものかな。初日からワクワクしながら観察を続ける俺である。 ――しかし、こいつなんでこのアパートにしたんだろうな。沖水女子大なら、もっと近くていいところがあっただろうに。  俺は昼飯のカップラーメンの蓋を開けながら、首を傾げる。 ――駅に近いけど、駅そのものはそんなにデカくねぇし、乗り換えに便利ってこともないのにな。大きなショッピングモールが近くにあるでもねぇし。……そういや、何でこのアパートの存在知ったって言ってたっけか?普通のチラシは出してないはずなんだが。  おや、と俺は目を見開いた。画面の中。段ボールを開けて、いきなり満理砂が何かを床にぶちまけたからである。最初は液体かと思って焦った。それは、真っ黒な色をしていたからである。さすがに引っ越し早々床を汚されてはたまったものではないのだ。  しかしそれは液体ではなく、真っ黒な物質だった。烏の羽根のようなものだろうか、と俺は画面を注視する。段ボールをいっぱいに詰まったそれで、何か縫い物でもするのかと思ったからだ。  だが、すぐに気付いた。それは鳥の羽根よりずっと柔らかく、細かなものであると。そう、まるで。 「髪の毛……?」
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