のぞく、のぞく。

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 ぞっとした。そう、その床にぶちまけられた大量の物質は。誰がどう見ても、誰かの髪の毛にしか見えなかったからだ。糸ではない。糸ならばあんな光沢もなく、あんなぶちぶちに千切れているということもあるまい。 ――何しようってんだ?こいつ……。  大人しそうな美少女は、黙々と広がった髪の毛を円を作るようにして広げていく。まだ家具も何も置かれていないまっさらなリビングの茶色い床に出現した、髪の毛でできた大きな円。円が完成すると、彼女は先程より少し小さな段ボールを持ち出してくる。彼女の小さな腕でも十分抱えられる程度のサイズのそれを、満理砂は先程の同じようにして円の中心でひっくり返した。  ざらざらと音を立てて散らばったのは――真っ白な細かな砂のようなもの。しかしよくよく見ればそれらは細い細い三日月型をいた物体であるようだ。なんなのか、と観察していた俺はすぐに気がついた。  今度は、爪だ。大量の爪の欠片がまたしても段ボールをいっぱいに詰まっていたのである。本人のものなのか、それとも。 ――な、なんか。この女、やばくねぇか?何で髪の毛とか、爪とか。  愛らしい見た目の少女としか思っていなかったが、まさかやばい趣味でもあるのだろうか。背中に冷たいものを感じ始めていたものの、俺は画面から目を逸らすことはできなくなっていた。どうせ、盗撮にはバレていない。安全圏からただ眺めているだけなのだから何も問題はない――そういった安心感がまだあったからというのもある。  同時に、人間と言うものはとにかく“好奇心”が旺盛に出来ているのだ。怖いもの見たさとでもいうのか。途中まで見てしまったら、ここから先がどうなるのか気になってしまうのが人の性というものなのである。 ――もしかして、魔方陣のつもりなのか、これ?  彼女は真っ黒な髪の毛でできた円の内側、今度は白い爪で一回り小さな円を作っていく。さらに三つめの段ボールを持ち出してきて、その小さな円の真ん中に中身をひっくり返したのだった。  今度は、ざらざらとぶちまけられることにはならなかった。ぼとん、と音を立てて円の中心に落下したものは、一つの固形物であったからである。 「ひっ……」  流石の俺も、吐き気が込み上げそうになった。ごろん、と転がったのは真っ黒な――子猫の、生首に見えたからである。
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