愛の咆吼

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 ***  それは、初めて見るケースだった  通報を受けて駆けつけたその場所にいたのは、ひとりの女と二人の若い男という“恋人達”であったのである。  彼らは三人で“恋人”をしていた。同性同士で恋愛をすることが禁止であるのは言うまでもないが、この世界では恋人は一人につき一人と決められているのだ。浮気をする人間も当然規則違反として地獄に堕ちることが決まっている。三人でお互いを愛し合う恋など、認められるはずもなく、ましてや成立するわけもないと考えられていた。  だが、発見された時、若い男女三人は本当に、どの相手も同じように大切と言わんばかりにお互いを抱きしめ合って震えていたのである。まるで、この愛の形を誰にも否定することなど出来ないとでも言うように。 「人間は、一人の存在しか恋人として愛してはいけない。何故なら、一人で二人分を愛することなど不可能であるからです。二人を愛せば、一人が受ける愛は半分になってしまう。それでは真の愛ではない。貴方がたの愛は、真の愛ではない以上、規則に準じて裁きを与えなければなりません」  いつも通りの台詞を吐く私。黒髪の女性、金髪の男性、茶髪の男性。彼らは涙を浮かべて自分達を見ていたが――やがて、驚くべきことが起きたのである。  そのうちの茶髪の男性が二人から離れ、私の目の前に両手を広げて立ちふさがったのだった。 「天使様。……貴方様は、誤解しております。真の恋人同士であるのは、後ろの二人のみ。私は……私は勝手に二人を好きになり、つきまとっていたストーカーにすぎません」 「ダミアン!?」 「おい、ダミアン何を言ってるんだ……!」  彼の言葉に、黒髪の女性と金髪の男性は驚いたように声を上げる。ダミアンと呼ばれた茶髪の男性は一度だけ笑みを浮かべて二人を振り返ると――再び私に向き直り、凛とした声で訴えたのだった。 「男一人に女一人の清らかな恋愛ならば、この天国であっても罪にはならないはず。罪があるのは、一方的に彼らを愛して付きまとったこの私だけであるはず。どうか天使様、正しき裁きを。あの二人に、罪はありません。地獄に堕ちるべきはこの私、ダミアン・アーメントのみです……!」
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