愛の咆吼

5/7

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 私は唖然とした。通報してきた目撃者の証言からしても、彼らが三人で“恋人”をしていたことは間違いない。このダミアンという男は、あとの二人の男と女、どちらとも等しく愛し合っていたはずだった。性的な行為こそ彼らの内で目撃されていないものの、三人がそれぞれ互の唇にキスを落とし、抱きしめ合う姿を見たという天国の住人は数多くに上っている。  それなのに。この男は、愛する二人を守るために――自分の愛を否定してまで、己の身を差し出すというのだ。確かに、男の言う通り“後ろの二人だけが恋人”で“彼が横恋慕しようとしただけ”というのであれば、裁きに該当するのはダミアンただ一人ということになる。だがそれは――それではこの男は。 「嫌よ、何でそんなこと言うの!私は、私はヨーナスのこともダミアンのことも同じだけ愛してるっていうのに!どっちも私の大切な恋人……大切な存在。どんな法にも屈せず、三人で愛し合って共に未来を生きようと誓い合ったじゃないの!ねえ、貴方だって言ったでしょう?私とヨーナスのことを同じだけ愛しているって、永遠に愛し続けるって!それは、嘘じゃないんでしょ、ねえ!?」  泣き叫ぶ黒髪の女を、ただただぎゅっと抱きしめる金髪の男。男は必死で、ダミアンの決意を守ろうとしているのかもしれない。噛み締めすぎた唇が切れて、だらだらと血をこぼしているほどだ。  私は混乱した。いくら恋人同士だ、家族だといっても、いざという時は保身のために平気で他人を切り捨てるのが人間ではないのか。それなのに、何故ダミアンは自らの名誉をドブに捨てて、己をストーカーに見立ててでも残る二人を守ろうとするのか。ここで捕まったら最期彼は地獄に行き、永遠の責め苦を受け、二度と彼と彼女に会うことはできなくなるというのに。 「天使様」  ダミアンは、泣きながら笑っていた。そして私に言ったのだ。 「私の愛は悪。そうなのでしょう?」   それは、今まで私が口がすっぱくなるほど自分で言ってきたことのはずであったのに。  その時私は、自分でも驚くほど――心臓を抉られた気持ちになったのである。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加