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愛とは、一体何なのだろう。
確かに、今まで私が裁いてきた恋人達の中に、自分が生きながらえるために相手を差し出してきた者はいなかった。しかし、私は神様の御膳での裁きまで見ていたわけではなく、きっと神様の前に引きずり出された後はそうではないはずだとばかり思っていたのだ。自分が助かるために、罪を相手になすりつけることも厭わないに決まっている。それが人間。だから、己が今までやってきた行為は全て正しいに決まっている、と。
――愛は、罪?……違う。私は本当に信じたかったのは、そんなことじゃ、ない。
愛が罪なのではなく。人を、愛する勇気がないことが本当の罪。心のどこかでわかっていたのかもしれない。それでも、認める勇気がなかった理由は――自分が、その真の愛を受けられないまま死んで、天使になってしまったからに他ならない。
愛されないのが当たり前、人が人を踏みにじるのが当たり前だと信じたかった。
愛を受けられず、惨めに踏み潰された存在が己だけだと信じたくなかったがゆえに。もう自分の元の性別も、母親の言動も何もかも朧げにしか覚えていないというのに――私はまだ心のどこかでとっくに地獄に堕ちたはずの女の幻影に縛られ、怯えていたのである。
そうだ、確かに言われていた。
『お前なんか、一体誰が愛するっていうの?お前なんかを好きになって、一体何の得があると言うのよ』
人間は、メリットがなければ人を愛さないイキモノだ、と。
だから全ての無償の愛を語る存在は、ペテン師に過ぎないのだと。――そう思えば自分の過去は別段悲惨なものと考えずに済んだし、愛という名の罪を犯す者達を捕まえて断罪することに心が一切痛まなかったのである。
それが人間の本性に違いないと、そう思ってきたから。しかし。
「神様」
私はその日、神様の目の前に跪いて尋ねたのだった。
「何故。愛に規則があるのでしょうか。私が捕まえた人々には真の愛がない、ゆえに裁かれた。それは本当のことなのでしょうか」
天使の中ではいつも誰より神様に忠実で、冷徹に仕事をこなしてきた私からそのような質問が出たことを、神様は一体どう思われたのだろうか。
彼ないし彼女は、どちらともいえぬような美しい声でこう告げたのである。
「秩序を守るためには、規則が必要なのだ。規則は守られなければならぬ、ゆえに存在している。彼らに足らなかったのは愛ではなく、愛を貫くために必要な、あらゆる痛みを受ける覚悟だ」
その理屈であるならば。神様が唯一“認めて”いる、同年代の男女の恋愛にも同じような枷が必要であったはずではないか。何故、彼らだけが何の咎めもなく愛を許されているのか。何故同性を、近親を、複数を愛してしまっただけで。あるいは愛を確かめる行為をしただけで、その愛そのものが否定されなければいけないのか。それはただ、神様の望む愛を人々に押し付けているだけではないのか。
ぐるぐると巡った思考を、私が口にすることはなかった。
ただ、黙って決意していた。
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