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ピロローグ 『a letter』
『Ωなら良かった。
なんて、何度思っていたか、貴方は知らないのでしょうね。
花が散り舞う時も、潮風がたなびく時も、色移りゆく時も、白が一面を覆う時も。
いつも、貴方の横顔を見ていたけれど。
俺を、見ていてくれたけれど。
この、もどかしい、という感情を、貴方は知っていますか。
βでも星の光の夢は……見るんです。
貴方が、αであれば良かった。
β同士のお付き合いは出来ないのですから。
俺は貴方と一緒にいても、どこか心の隅でああこの人とは本当には一緒にいられないんだ、と諦めの気持ちも湧いていました。
俺が、Ωだったら。
貴方が、αだったら。
みんなから認められて、堂々と「貴方は俺のものだ」と言えるのに。
Ωもβと同じ順位になったというのに、悔しい。
どうして、βでも星の光の夢を見れてしまうんでしょう。
星の光。
Ωとαにとっての、運命の番の印。
Ωとαは、夢で星の光を見る……何故、βである俺が、見えてしまうんでしょうか。
悔しい。
悔しくて、涙が出てしまいそう。
今は、その溢れ出た涙を暖かい貴方の指がすくってくれるけれど。
その、俺に対しての好きという感情は偽り。
今の貴方は、本当には俺の事を好きでは無いのです。
ただ弟みたいに可愛がってくれているだけ。
いつか貴方は、俺に興味を無くす。
そして俺を捨てるんです。使い捨てのお箸みたいに。
それでも構わない。
今、今だけで良いから。
まだ、君の隣にいさせてください、笑わせてください。
まだ幼い、ズルい俺からのお願いです。
笑います。
君が好きだと言ってくれたこの笑顔で君の隣に座っています。
あぁ、でも。
現実はそう上手くは行かないものですね。
ポカポカの太陽の光に、爽やかなそよ風。
ほら、良い響きでしょう?
この中に、ずっと居ていたいです。
でも、もう夢の時間もおしまい。
ネバーランドの営業時間は、子供の時だけなんですよ。
一時の子供の過ちも、大人たちは赦してくれるはず。
さぁ、目を覚ましましょう。
急なお手紙、すいませんでした。
無性に出したくなってしまって早朝のうちに出しておきたくて。
先輩は、朝が弱いから眠り眼を手で擦りながらこの手紙を読んでいるのかな。
どうか、目が覚めても、君が笑顔でいますように。
でも、でも、出来ることならーーーーその笑顔で笑いかけた「誰か」が、僕であって欲しかったなぁ。
PS,歯磨き粉、もうすぐ切れそうですよ。ちゃんと薬局屋行ってかってきてくださいね。じゃないとサボり癖のある先輩だと直ぐに虫歯になりますよ。では、また。
20××年2月27日一ノ瀬 唯人』
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