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優しい優子
名は体を表す。優子は優しい性格をしている。
■
その日の夕食時、優子はいつもに増して不機嫌な父親を気にかけていた。家業が不振であるのは食卓を見れば分かる。副食が一品少なく、旬の果実も上がっていない。
「優子、余所見していないで食べなさい」
隣に座る母親の律子に注意されると、本来その椅子に座るべき姉の姿を脳裏で探す。今夜は揃って夕食をとるのだと厳しく伝えられたのに帰ってこなかった。
それどころか先ほど、姉の知り合いと名乗る人物が訪ねてきてーー
「まったく良子は何を考えているんだ!」
叩き付けるグラスの中で波が生まれ、溢れる。側付きの徳増がすかさず布巾を差し出す傍ら、律子が怒れる家長を横目に息を吐く。
「何も考えていないんですよ、あの子は」
「お前の躾が悪いんじゃないのか?」
「よしてくださいよ。良子は私の娘ではありません。私の娘はこの子だけですので。ねぇ? 優子」
話を振られ、優子は肯定とも否定とも判断つきにくい笑みを浮かべる。
事実、優子と良子は腹違いの姉妹だが、優子は本当の姉のように慕っていた。まぁ最近は少々距離を置かれているものの、優子は両親に対する良子の反抗心を理解し、尊重したいとも考えている。
「やはり、お姉様の縁談はお断り出来ないのでしょうか?」
優子の発言に4本、いや6本の眉がしかめられた。
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