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ひばりとの結婚もゆくゆく暁月の知名度をあげる。その算段をつけたからこそ、あの酒井も結婚を認めたに違いない。
「人は変わるものね、それでいて根っこは変わらない」
女主人は自分も含め、そう思う。とそんな折、花束を抱えた人物が目に入る。
朝露に濡れた鮮やかな薔薇と外套を目深に羽織る姿があまりにも対照的であり、思わず声を掛けてしまう。
「綺麗な薔薇ね。奥様に?」
ひばりの花嫁衣装には薔薇の刺繍が施してある。
外套を纏う人は呼び掛けで振り返り、答えた。
「今朝、庭で育てていた薔薇がとても綺麗に咲いたものですから、これはきっと奥様の為の薔薇と思いましてお持ちしましたの」
表情が見えないものの、話し方が上品で所作も洗練されている。女性は顔に傷や痣があって素顔を隠しているのだろう。
幾らおめでたい日といえど素性が怪しまれる者は屋敷に入れないはずだ。
「それとーー」
女性は花束を抱えたまま、次は短剣を懐から取り出す。
「こちらは魔除けの短剣です。花束と一緒にお渡しできるといいのだけど」
刃物の気配に一瞬ぎょっとした女主人だが、滑らかな説明を添えられた。
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