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遠まわしながらも、女性は贈答品を手渡して欲しいと言っている。
女主人がひばりと今しがた別れたばかりなのに、難色を示そうとするとーー女性が笑みを浮かべた。
「あぁ、ご無理を申し上げて申し訳ありません。お忙しいですよね」
それはお手本通りの微笑み、美しく口角を上げただけの。目元は変わらず見えないが、これまた笑ってみえる風に細めてるのだろう。
女主人は笑みを前に寒気がした。このやりとりに注意を向ける人はおらず、優雅な立ち話と認識されてしまうのが怖い。
「薔薇はともかく短剣は物騒でしょ? 奥様の手元にきちんと届くか心配になってしまったの」
「奥様も花嫁が短剣を持つ風習はご存知では?」
例えひばりが知らなくとも、酒井は承知しているはず。さすがに短剣の値打ちを見誤らない。あれは相当価値がありそうだ。
妙な間があく。
「だと、いいですが。それと、あの方が隠してしまわなければいいわ」
「あの方とは?」
「妊娠中に刃物は宜しくないと言って、取り上げてしまいそうだもの」
そう嘆き、踵を返す。女性はひばりに一般常識が備わっていないと言ったも同然。そのまま贈答品が集められる部屋へ歩いていった。
てっきり女性がひばりの友人、もしくは関係者だと接したが、どうもきな臭い。しかも女主人は既視感というか、あの女性と何処かで会った気がする。
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