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「まだ居たのか?」
秀人が突っ立って惚ける女主人の肩を叩いた。
「あっ、あぁ」
女主人は外套の人物が放つ独特の雰囲気に息をつまらせ、ここでやっと吐く。手を繋いでいたはずの子供は秀人の足元でじゃれている。
「どうした?」
「いえ、圧倒されてしまいまして」
「圧倒?」
子の頭を撫でて、秀人が鼻で笑う。
「えぇ、薔薇と短剣を贈りに来た女性と行き合ったのですが、言い難い迫力がありまして息がつまりました」
「ほぅ、お前が怯むとはな。そりゃあ大したものだ」
抱っこをせがまれた秀人は片手で叶えてやる。もう片方には書類が握られ、もはやこの男、仕事中毒。
中毒者は大好きな仕事の合間を縫い、見送りにやってきた訳ではあるまい。女主人が子供を引き取って今度こそ立ち去り、秀人は軽く手を振り返す。
「薔薇と短剣、ね」
この組み合わせは秀人の興味を若干引いた。見てみようかと部屋へ向かう。
明日は酒井に一任し、仕事以外やることがない。まぁ、花嫁のご機嫌伺いなどあるにはあるが、どうにも気が進まなかった。
ひばりが戦友である。秀人もここに異論はない。
優子の2度に渡る失踪が様々を奪った中、ひばりはよく支えてくれた。感謝をしている。本当だ。
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